INSIGHTS
テーマ

持続可能なインフラ維持管理に向けて サムネイル

持続可能なインフラ維持管理に向けて

  • 大阪大学
  • インフラ
  • 住民参加
  1. はじめに
  2. インフラの老朽化と直面する課題
  3. 予防保全への転換と新技術
  4. 「住民と育む」共創的アプローチ
  5. おわりに

はじめに

 近年、道路陥没や水道管破裂といったインフラの老朽化に起因する事故が各地で報告されています。日常生活の中では意識することの少ない道路や下水道、橋梁といった社会基盤は、私たちの安全・安心を静かに支える不可欠な存在です。
 しかし、道路橋、トンネル、上下水道などの日本の社会インフラの多くは、戦後の高度経済成長期に急速に整備され、今後20年の間に老朽化したインフラの割合は急速に増加し、維持管理の必要性は喫緊の課題となっています。

インフラの老朽化と直面する課題

 現在、社会インフラを取り巻く環境は大きな転換期にあり、老朽化の進行、財源の制約、人材不足といった課題が重なり合っています。国土交通省の公表資料によると、建設後50年以上経過している割合は、今後もさらに増加することが予測されています。例えば、2023年3月時点の道路橋で約37%が50年を超えており、2030年には、道路橋の約54%、2040年には、約75%に達する見込みです。これは、高度経済成長期に集中的に整備された社会インフラが一斉に更新期を迎えつつあることを示しています。
 道路橋や下水道、公園といったインフラの多くは、市町村が管理を担っています。例えば道路橋では68%、下水道(管渠)では75%、公園では76%が市町村管理となっています。しかし、インフラの更新や修繕には、膨大な財政負担が伴います。一方で、市町村の土木費は、ピーク時から減少傾向にあります。加えて、自治体の技術職員数も減少傾向にあり、また、建築業界全体においても、担い手不足が深刻化しています
さらに、近年は豪雨など自然災害が頻発し、既存インフラへの影響が懸念されます。
こうした限られた人員・財源のもとで、不具合が生じてから対策を行う従来の事後保全型の維持管理には限界をむかえています。

予防保全への転換と新技術

 持続可能な維持管理を実現するためには、事後保全から予防保全への転換が重要とされています。国土交通省においても、インフラ分野では状態を把握しながら計画的に補修を行う「予防保全型」への転換を推進しており、劣化を早期に把握し適切な時期に対応することが、長期的なコストの最適化と安全性の確保につながると示されています

このような背景からも、近年、AIやIoT、各種センサー技術、ドローンなどの新技術を用いたインフラ点検や診断技術の研究開発が進んでいます。
我々の拠点である大阪大学 住民と育む未来型知的インフラ創造拠点(FICCT:Futuristic and Intellectual Co-Creation Town)においても、センサーによるリスク予測や汎用性のあるドローンを活用したデータ解析などの技術開発を進めています。
これらの技術は、点検の効率化や事前診断の向上を通じて、限られた人員や予算の中での維持管理を支える可能性を持っています。ただし、インフラの維持管理は長年の経験や現場の判断に支えられてきた分野でもあります。DX化によって新たな選択肢が広がる一方で、技術と現場の知見をどのように組み合わせていくか、自治体の現場で無理なく活用できる形へと育てていく視点も大切だと考えています。そのため、本拠点では、大学による研究開発だけで完結するのではなく、自治体、企業、そして地域住民と協働する産学官民連携の枠組みを重視しています。多様な主体が知見を持ち寄り、課題を共有しながら共創を進めることで、実効性のある社会実装に繋がると考えています。

「住民と育む」共創的アプローチ

 限られた人員・財源の中で維持管理を持続させるためには、自治体内部での効率化は不可欠です。しかし、インフラは地域の生活を支える共有財産でもあります。その維持のあり方を行政のみの課題とせず、地域社会とも課題認識を共有し、社会全体がインフラを支える主体となる仕組みが求められます。長期的には持続可能性を高めることにつながると考えられます。私たちが取り組んでいる「住民と育む」という視点も、こうした問題意識を背景とするものです。

 こうした視点は、私たちの取り組みに限ったものではなく、近年、住民参加型のインフラ管理や、市民との協働による維持管理の取り組みは各地で進められています。
住民参加型の取り組みとして知られる代表的な事例として、千葉市が運営する「ちばレポ(MyCityReport)」があります。市民がスマートフォンで道路や遊具の破損などを投稿し、行政や市民同士で情報を共有する仕組みです5。こうした取り組みは、住民が単なる利用者にとどまらず、インフラ維持の一端を担う主体となり得ることを示しています。

 私たちの拠点では、センサーシステムの研究開発を進めながら、それを単なる技術実装にとどめず、地域と共創する仕組みづくりに取り組んでいます。その基盤としているのがリビングラボという方法です。リビングラボは、住民、行政、大学、企業など多様なステークホルダーが、生活環境の中で製品やサービスを共創する場・手法として注目されています6,7。特に都市課題の解決やスマートシティの実現を視野に展開されるものはUrban Living Labと呼ばれています8,9。近年、リビングラボは、技術実証や製品開発にとどまらず、社会制度や価値観の変容を含むものが多く見られます。

 私たちは大阪府内の複数の地域でリビングラボを実施しています。その中の1つの地域は1970年代に開発されたニュータウンです。高度経済成長期に整備された都市基盤が更新期を迎える一方で、人口構成やコミュニティのあり方も大きく変化している地域です。
現在は、健康・交通・コミュニティを軸とした3つのプロジェクトを展開しています。インフラは本来、日々の暮らしを支える基盤ですが、道路や橋、水道管といった存在は、正常に機能している限り意識されることが少なく、生活者にとってはどこか距離のあるテーマになりがちです。そのため、健康づくりや地域コミュニティといった身近な課題を入り口とすることで、徐々にインフラへの関心と関与を広げることを目指しています。そのプロセスの中で、インフラを「行政が管理するもの」から「地域がともに支えるもの」へと位置づけ直す可能性を探っています。

おわりに

 本稿では、インフラ老朽化という構造的課題を背景に、予防保全への転換、そして住民とともに取り組む枠組みについて述べてきました。
私たちの拠点で進めている取り組みは、まだ発展途上にあります。リビングラボの実践も、完成されたモデルというよりは、地域や自治体の実情に応じながら試行を重ねている段階です。
多様な主体が関わり、小さな実装と振り返りを積み重ねていく。その過程を通じて、技術の可能性と現場の制約とをすり合わせながら、持続可能な維持管理のあり方を模索しています。今後も自治体や地域の皆様とともに実践を重ねながら、技術と社会をつなぐ維持管理のあり方を探究していきたいと考えています。

(参考文献)
1) 国土交通省,インフラメンテナンス情報 社会資本の老朽化の現状と将来, 「建設後50年以上経過する社会資本の割合」https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/index.html (閲覧日: 2026年2月7日)
2) 国土交通省, 2023,「PPP/PFI推進政策説明会 国土交通省におけるインフラメンテナンスの取組」https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanminrenkei/content/001584616.pdf
3) 国土交通省, 2024, 令和6年版 国土交通白書, 「本格化する少子高齢化・人口減少における課題」https://www.mlit.go.jp/statistics/file000004/html/n1111000.html
4) 国土交通省, 2024, 令和6年版 国土交通白書, 「社会資本の老朽化対策等」https://www.mlit.go.jp/statistics/file000004/html/n2140000.html
5) 国土交通省,2014, 平成25年度 国土交通白書, 「これからの社会インフラのあり方」https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h25/hakusho/h26/pdf/np102000.pdf
6) Følstad, A ., 2008, Living labs for innovation and development of information and communication technology: a literature review. The Electronic Journal for Virtual Organizations & Networks, 10.
7) Hossain, M., Leminen, S., & Westerlund, M., 2019. A systematic review of living lab literature. Journal of cleaner production, 213, 976-988.
8) Voytenko, Y., McCormick, K., Evans, J., & Schliwa, G., 2016. Urban living labs for sustainability and low carbon cities in Europe: Towards a research agenda. Journal of cleaner production, 123, 45-54.
9) Steen, K., & Van Bueren, E., 2017. Urban Living Labs: A living lab way of working.

執筆者

村上ゆい