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オーバーツーリズム対策は「混雑対応」では終わらない ―自治体が選べる「五つの対策サイクル」で進める持続可能な観光地マネジメント ― サムネイル

オーバーツーリズム対策は「混雑対応」では終わらない ―自治体が選べる「五つの対策サイクル」で進める持続可能な観光地マネジメント ―

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  1. INDEX
  2. 課題背景(オーバーツーリズムは「混雑」ではなく「持続可能な観光地マネジメント」の課題である)
  3. 「混雑対策」から「地域条件の分析」へ:オーバーツーリズムの捉え方をアップデートする ―類型×地域特性で施策の効果を高める―
  4. 具体的事例:先進地の取組と示唆(バルセロナ/ベネチア/京都/西表島)
  5. 対策類型:一連する五段階の対策サイクル
  6. まとめ(対策を組み合わせて地域の持続可能性を取り戻すために)

INDEX

• 課題背景(オーバーツーリズムは「混雑」ではなく「持続可能な観光地マネジメント」の課題である)
• 「混雑対策」から「地域条件の分析」へ:オーバーツーリズムの捉え方をアップデートする
• 具体的事例:先進地の取組と示唆(バルセロナ/ベネチア/京都/西表島)
• 対策類型:一連する五段階の対策サイクル
• まとめ(対策を組み合わせて地域の持続可能性を取り戻すために)
• 参考文献

課題背景(オーバーツーリズムは「混雑」ではなく「持続可能な観光地マネジメント」の課題である)

 「オーバーツーリズム」が問題になっている、というと、まず観光客が大量に押し寄せて混雑した状況がイメージされる。しかし、現在の日本において、オーバーツーリズムを論じることは、もはや一部観光地の混雑対策を論じることではない。観光は、成長機会であると同時に、地域社会の持続可能な観光地マネジメントを問う政策課題になっている。
 2025年の年間訪日外客数は4,2683,600人で、2024年を約580万人以上上回り過去最多となり、2025年の訪日外国人旅行消費額は94,549億円で過去最高である。また、日本人の国内旅行消費額も2025年に267,746億円と過去最高を記録し[1]、国内外からの観光客が日本経済に貴重な成長機会をもたらしていると捉えられる。一方、観光庁は202310月に「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を公開し、観光客集中による混雑やマナー違反が住民生活と旅行者満足度の双方に影響を与えていることを認めた上で、オーバーツーリズムを、過度の混雑やマナー違反による住民生活への影響、旅行者満足度の低下への懸念として整理し、「地域の実情に応じた具体策を講じる」地域主導の取組を総合的に支援する方針を示している。さらに、観光庁の「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」は、「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを実現するためには、観光客と地域住民双方への配慮、多面的かつ客観的なデータ計測、中長期的な計画に基づく総合的な観光地マネジメントが重要であると明示している。すなわち国の方針として、オーバーツーリズム対策は単なる混雑対応やマナー啓発の問題ではなく、持続可能な観光地マネジメントの中核課題として位置づけ直す必要性が示されている[2]

 このような国の政策で重視されているのは、混雑発生後の対症療法ではない。各地域の観光地が国による支援制度を必要に応じて利用しつつ、地域自身があるべき姿を描き、その実現に必要な手段を自発的に選択して実施できるような観光地マネジメントが重要である[3]。ただし、こうした「観光地マネジメント」の要請は抽象度が高く、自治体をはじめとした現場では何から手を付けるべきか、どの施策をどの順序でどう組み合わせて導入すべきか判断しにくい。
 また、オーバーツーリズムに対処して持続可能な観光地マネジメントをしている国内事例について整理・報告している事例研究で、地域の参考になりそうなものは筆者の確認した限りまだあまりない。そこで本稿では国内に加えて海外の事例を踏まえて、持続可能な観光地マネジメントに資する効果的なオーバーツーリズム対策を簡単に把握できる形式で体系的に整理し、実例とともに示すことで、今後国内各地で対策を検討する際の参考となる公開情報を増やすことを目的とする。その結果として、日本各地で地域自身が国による総合的な支援制度を必要に応じて利用しつつ、各地のあるべき姿を実現するために必要な手段を自発的に選択して実施する一助となるよう試みる。
 具体的には、まず本稿の前半で、オーバーツーリズムを「単なる混雑対策に矮小化しない」観点から、観光地の類型と地域特性の組み合わせによる課題の把握手法を整理する。その上で、先進地の事例を概観しつつ、地域が自ら対策を選択・実装する際の判断軸となるよう、主要な対策類型を五段階の対策サイクルとして提示する。

「混雑対策」から「地域条件の分析」へ:オーバーツーリズムの捉え方をアップデートする ―類型×地域特性で施策の効果を高める―

 オーバーツーリズムを論じる際には、ベネチア、バルセロナ、アムステルダム、京都といった著名観光地の混雑が象徴的に取り上げられがちである。オーバーツーリズムを「人気観光地に人が集まりすぎる現象」とだけ理解すると、議論は混雑緩和やマナー啓発に矮小化されやすい。しかし、オーバーツーリズムは単なる「混雑」だけではなく「統治」の問題でもある。「持続可能な責任ある観光の促進を責務とする国連専門機関」[4]であるUN Tourism(旧UNWTO)が世界中のオーバーツーリズム対策を調査して2018年に公表した報告書では、オーバーツーリズムを単なる観光客増加の問題ではなく、住民認識、都市構造、利用形態、公共空間への負荷、移動の集中などが複合して現れる問題として捉えている。そして、欧州8都市の住民意識や観光利用の状況を踏まえ、観光需要を理解・管理するための11の戦略と68の措置を提示している。すなわち、オーバーツーリズム対策には「万能の解」があるのではなく、地域ごとの条件に応じた組み合わせが必要だということである[5]
 この地域ごとの条件に応じた組み合わせを考える際に重要なのは、観光地を知名度や来訪者数といった指標、すなわち「人気があるかどうか」だけで捉えるのではなく、観光地や観光資源の類型と地域特性の組み合わせで分析することである。観光地や観光資源のあり方を分析した文献[6]における分類を踏まえて、例えば都市型・自然型・文化型・イベント依存型・島嶼型・農村型といった観光資源の類型に加えて、人口規模、アクセス条件、観光依存度、住民の高齢化の度合い、DMO等の管理主体有無等の地域特性もあわせて見なければ、どのような施策が有効かは判断できない。こうした見立てができて初めて、対策の選択肢が議論可能になる。
 日本の観光庁が定めた「日本版持続可能な観光ガイドライン」(JSTS-D)も、観光地マネジメントを進めるには、地域の取組状況を自己評価し、優先課題を抽出したうえで方針策定に活用することが重要であるとしている。すなわち、オーバーツーリズム対策は「混雑が起きたら対応する」発想ではなく、地域条件を診断し、観光による地域への負荷の発生を予測したうえで、実装可能な手段を組み合わせる設計課題として扱うべきである。
 国内の自治体における観光政策にも、この視点が取り入れられ始めている。具体的には江戸時代の城下町の街並みが今なお残り、「みちのくの小京都」とも呼ばれる角館[7]の他、乳頭温泉や玉川温泉といった有名な温泉地が位置する仙北市が策定する計画と、計画に紐づく各政策や取組は国内における好例である。

 仙北市は第3次観光振興計画[8]を策定するに当たり、市職員に加えて東北観光推進機構や地元の観光協会、地元交通機関(東日本旅客鉄道秋田支社)等の有識者で構成する策定委員会を組織したうえで、地域にある観光地の類型と地域特性を組み合わせつつ地域の現状を客観的に自己評価し、優先課題を抽出した上で基本方針を設定した。その自己評価によると、例えば、仙北市を訪れる代表的な動機は温泉が最も多く、次が自然や景観であり、仙北市へ来訪する国内観光者は60代男女が最も多い。ただ、鉄道・バスの便数の少なさ等の交通の便の悪さが国内観光客からの不満で最も多く、ランチ時に入れる店舗、休憩できるカフェのような店舗の少なさは観光客から生じている不満の代表的なものとされる。ゆえに、今後は、二次交通における不便性を補う可能性の模索や、観光客のニーズを踏まえたサービスの提供・情報発信など、観光関連サービス等における選択肢の多様化と受入環境の磨き上げを行っていく必要があると自己分析している。
 また仙北市の人口は、2020年には約26千人であるが、過去65年間で約2万人(約44%)が減少したとされ、今後も人口は自然減が続き2045年には約14千人まで減少し、減少の傾向は生産年齢人口も同様と推計されている。人口減少がこのまま進行すると、小売・飲食・医療機関等の生活関連サービスの縮小や税収減による行政サービス水準の低下、雇用の減少や生活利便性の低下が生じて地域の魅力が低下し、さらなる人口減少を招くと考えられている。しかも仙北市の経済循環においては、地域外からの流入に対し地域外への流出が多いことが明らかとなっており、観光による好影響を十分に取り込めていない可能性があると捉えられている。そのため仙北市では、今後は市内からの仕入れや消費を増加させ、自立性の高い循環型の経済構造を築いていく必要があり、市域外から最も多く所得を獲得しており基幹産業である宿泊・飲食サービス業等を含む観光産業について、飲食の原材料やお土産品、労働力などを地域内から得る取り組みを強化する必要があると自己分析している。
 こうした自己分析を踏まえて、仙北市の第3次観光振興計画では計画の理念、グランドデザイン、最終目標(Key Goal IndicatorsKGI)、最終目標へのプロセスである重要業績評価指標(Key Performance IndicatorsKPI)に対して、その達成に向けた具体的な取り組み方針や主な取り組み内容、そしてアクションプランを設定している。まず同計画はJSTS-Dに沿った形で「観光を通じた市民幸福度の向上」「観光客満足度の向上」「持続可能な観光マネジメントの確立」を理念に掲げ、観光消費額の増加だけでなく、観光客満足度、市民幸福度や持続可能性を同時に目標としている。そこでは、観光客の「数」を増やすだけでなく、質の高い地元民の居住地と観光地としての高付加価値化を進めたうえで、「一人当たりの観光消費額を高める」方向性が重視されている。これは、観光振興を単なる交流人口政策ではなく、地域社会の持続可能性と一体で構想しようとするものであり、オーバーツーリズムを政策論として扱ううえでも示唆に富む。

 次に同計画では仙北市が目指す観光街づくりのグランドデザインとして、国内観光者が仙北市を旅行先に選ぶ理由等を参考に「農村・営み」「自然・温泉」「歴史・伝統」を仙北市の観光における最大の強みと捉え、これらの強みを「仙北市ブランド」として強化し、“面”で発信していくため更なる融合を図り、相互連携をもってブランド力を向上させようとしている。とりわけ「自然・温泉」に係る観光地は山・湖・渓谷・温泉等の資源が市域内に点在する特性を持つため、【自然型・農村型】の類型と【広域分散】という地域特性として整理できる。
 また同計画上では「観光客が自由に移動し、仙北市全体を楽しむ」ことを目的に「回遊性の高い周遊ルートの提案・確立」が重視され、アクションプランにて「市内全域や広域周遊の促進」や「二次交通の不便さ解消」を明示し、自然・温泉資源が点在するという前提の下で、移動と周遊におけるボトルネックの解消を受入環境整備として位置づけている。具体的な取組としては、オンデマンド交通「よぶのる角館」を運行し、フリー乗降区域外でも温泉施設や渓谷等を含む観光拠点を乗降ポイントとして設定するなど、ラストワンマイルを補完する移動支援が実装されている。
 そして最終目標(KGI)として、(1)観光による市民幸福度の向上(観光振興によるまちの活性化を実感できるようにすること)、(2)観光消費額の増加(高付加価値化を進めて一人あたりの観光消費額を高めること)、(3)観光客満足度の向上(本市観光に関わる様々な要素の水準を高めることによる再来訪意向や他者推奨意向の促進)を設定し、KGIを達成するために重視する過程として8つのKPI[9]もあわせて設定している。
 このことから、仙北市の観光政策は、地域条件に即した実装の道筋として提示されていることが重要であることが分かる。また、角館は通常【文化型】の類型とされる観光地であるが、桜まつりの時期は【自然型】・【文化型】の類型と【狭隘空間】・【短期集中】という地域特性が明確に重なる局面となる。この時期は歩行者天国、車両進入規制、路上駐車禁止といったアクセス制御が実施され、住民向けの通行許可証や駐車券配布も制度運用として位置づけられている。また、渋滞対策は国・県・警察等の枠組みで実施され、清掃活動によるごみ対策も行われている。
 以上を整理すると、仙北市の観光政策において温泉・自然エリアのような【自然型・農村型】の類型と【広域分散】という地域特性では移動支援をはじめとした受入環境整備が合理的な対策となり、角館のような【自然型】・【文化型】の類型と【狭隘空間】・【短期集中】という地域特性では需要管理によるオーバーツーリズム対策が理にかなっている。仙北市の事例は、類型×地域特性に基づいて施策を選択することの有効性を具体に示している。

 以上のとおり、オーバーツーリズムを「混雑」現象としてではなく、観光地の類型と地域特性の組み合わせから捉え直すことで、地域が直面している負荷の種類と発生メカニズムをより具体に把握できる。以降の第2章と第3章では、先進地の事例と対策類型の整理を通じて、地域が自ら選択・実装しやすい対策の組み立て方を示す。

具体的事例:先進地の取組と示唆(バルセロナ/ベネチア/京都/西表島)

 先進的な観光地では、オーバーツーリズム対策を短期の「混雑対応」としてではなく、住民受容、需要管理、財源確保、制度運用まで含む長期的なマネジメントとして磨き上げている。以下では、代表的な先進地の取組を概観し、自治体が対策を選択・組み合わせるうえでの示唆を整理する。

1)バルセロナ市(スペイン):住民受容が政策の上限を決める
 バルセロナ市の事例による示唆は、観光政策の成否が住民受容に左右されるという点にある。バルセロナ市の情報によると、2023年の観光意識調査では70.9%の住民が「観光は都市にとって有益だ」と評価する一方、23.0%は「観光は都市にとって有害だ」と答え、特に観光客の多い地区に住む人に限ると、その割合が28.2%に達している[10]。さらに別の公式情報では、2024年の認識調査として、63.7%の住民が観光宿泊は自地域に相当程度の迷惑をもたらしていると捉え、4人に1人が自地域には民泊用途等の観光用住宅が多すぎると考えていることが紹介されている[11]。観光が経済的な利益をもたらしていても、住民の「観光が不利益をもたらしている」という感覚が強まれば、政策の正当性は損なわれ持続は難しくなる。
 この状況を踏まえ、バルセロナ市は2028年以降、短期滞在用途の民泊等観光用住宅のライセンスを更新・新規付与しない方針を打ち出している。さらに、賃貸住宅の登録情報を住宅登録番号と共に一元管理するデジタルプラットフォームを採用しており、用途とともに民泊として適切な住宅情報を登録しなかった賃貸住宅については、Airbnb等の民泊提供事業社の民泊検索サイト上に広告を掲載させないような制度を運用している[12]。こうした取組は、単なる観光政策にとどまらず、住宅政策や都市政策と合わせたオーバーツーリズム対策と捉えることができる[13]。住宅・宿泊供給の規制を検討する際は、許認可制度の設計に加えて、無許可で宿泊を提供している住宅を特定し、営業停止処分等による実効的な排除体制を組み込むことが必要である。

2)ベネチア市(イタリア):価格づけと予約で需要を「見える化」する
 ベネチア市は、2025年のアクセスフィー(観光客に対する入域料金)導入実証実験結果を公表している。ベネチア市の公式発表によれば、2025年は54日間の適用期間で723,497件の有料チケットが発行され、総収入は5421,425ユーロとなった。ただし2024年と比較して支払総件数は増えた一方で、1日平均支払件数は13,046件と、2024年の16,676件を下回った。また、支払者の51%は早期予約料金(5ユーロ)、49%は直前予約料金(10ユーロ料金)であった[14]。この実験では、予約時点による価格差をアクセスフィーに設け、前もって「混雑日に行く/行かない」の判断を観光客に行わせることで、観光客の集中を緩和しようと試みている。
 ここから得られる示唆は、価格づけが「高いから抑制、安いから促進」という単純な需要操作に留まらず複合的な効果が生まれる点である。実際には、①価格差により来訪行動を前倒し・平準化し、②予約を通じて来訪者数を事前に把握し、③徴収収入を管理費用に充当しうるという、需要の管理・分散、財源確保といった複合的な効果を持つ。予約・料金減免の仕組は主目的である需要操作だけでなく、来訪の事前把握とピークの平準化、運用財源の確保を同時に達成する仕組みとして位置づけ、目的に応じて組み合わせるべきである。

3)京都市(日本):可視化で「混雑前の回避」を可能にする
 京都市が先進地の事例として重要なのは、混雑の「事後対応」ではなく、来訪前・来訪中の意思決定を変える情報環境を整備している点である。京都市及び公益社団法人京都市観光協会が宿泊税を活用して運営[15]する「京都観光Navi[16]内の「京都観光快適度マップ」[17]は、人気観光スポット周辺の時間帯別観光快適度予測や、ライブカメラによるリアルタイム情報を提供することで、ユーザが行きたいスポットの混雑情報のみならず、比較的空いている代替スポットの情報を一元的に把握することが可能である。京都市観光協会の資料によれば、この仕組みは位置情報ビッグデータを活用して通年の予測を行うものであり、2023年以降は外国人の位置情報データも反映して予測精度を高めている。
 さらに同一サイト内の「京都観光デジタルマップ」[18]では各観光地の混雑情報、駐車場空き情報、交通規制情報、観光マナー情報、ルート検索等の機能を一括で提供している。
 ここで注目すべき点は、京都市が「混雑した後に対処する」のではなく、「混雑する前に避けてもらう」ことを制度的に支えている点である。観光状況の可視化は単なる情報提供ではなく、時間・場所の選択を変えることで需要を分散させる行動介入であり、観光客の分散を促している。この分散化を機能させるには、混雑の可視化・予測、代替先提示、交通・駐車等の情報を統合して提供することで、来訪前から行動選択を変えられる環境を作ることが重要であるといえる。さらにこの仕組みは宿泊税を活用して運営されており「運用し続けられる形」で整備されている点も重要である。

4)西表島(竹富町、日本):上限設定と予防原則を実装する
 2023年に策定された竹富町の西表島観光管理計画は、オーバーツーリズムに対する予防的管理の実装例といえる。同計画では西表島における入域観光客数について、2019年の29313人を基準に、年間の入域観光客数の管理基準値(上限値)を33万人、11,200人を上限とし、かつ前年比1割以上増加させないことを明確化した。これに加え、世界自然遺産地域内においては、エコツーリズム推進法に基づく立入規制と、西表島がある竹富町観光案内人条例に基づくガイドの免許制度といった法的拘束力を持つ規制を導入している。その他、観光利用に起因するヤマネコ等のロードキル対策や、利用が集中する場所や希少生物の重要な生息・生育地における更なる入込客数の絞り込み、島内での車両走行速度の制限等、様々な項目に関して上限設定を行っている[19]
 この事例の重要性は、観光振興よりも先に「どこまでなら受け入れられるか」を定めている点にある。特に入域地点を絞り込んで観光客の流入をコントロールしやすい小島嶼や自然資源型の観光地では、上限(容量)の設定と、それを実効化する制度(立入規制・許認可制度等)およびモニタリング指標をセットで整備し、問題が顕在化する前にこれらを実行できる体制を構築することが有効である。

対策類型:一連する五段階の対策サイクル

 次に、オーバーツーリズム対策を実務で選択・実装可能な形に落とし込むため、ここまで本稿で解説してきた先進地における事例やその他の国内外の事例において効果的である取組を整理し、五段階の対策サイクルとしてまとめたものが以下の表である。

オーバーツーリズム対策サイクルの例

<現状把握と環境整備>個別手段の実施の前に対策の準備を整える

1)評価・調査(事後ではなく事前対応から始める):現状把握・影響分析・モニタリング
 まず、オーバーツーリズム対策においては、混雑が発生して問題が顕在化する前から負荷発生を予測し、先回りして手当てする発想が求められる。地域条件の診断、モニタリング指標と対策実施の閾値、発動ルール、段階的な対策導入の計画等を整備し、現状把握・影響分析・モニタリングを企画・実施して「事後対応」から「予防的マネジメント」へ移行することが、需要急増リスクを抱える地域にとって重要な対策の基盤となる。
どの地域でも忘れてはならないのは、「うちの地域は混まないだろう」と思い込むような一見観光地でなかったり観光地開発に取り組んでいない地域であったとしても、観光需要の急増が起こり、オーバーツーリズムが生じ得ることである。自分の地域でも「これから起こりうる問題の先行例」として対策の先行事例を捉え、対策の必要性を認識して教訓を得ようとすることが重要である。

2)財源確保と受入環境整備(持続的管理の財源をつくる):入場料・課税・対応基盤整備
 オーバーツーリズム対策を継続的に機能させるには、対策の運用を支える財源と実施体制を確保することが不可欠であり、対策により管理コストが増える地域ほどこの確保が重要となる。交通整理、予約システム、情報発信、文化財保全、清掃・ごみ処理、住民説明、モニタリング等の実施には継続的な人員と費用が伴う。訪問税等の法定外税や料金収入の充当などにより、観光利用で増大する公共需要に対応する財源を確保し、用途の透明性と住民による制度の受容を担保しながら、対策を持続させる必要がある。

<個別手段の実施>状況に応じて予防的対応と事後的対応を選択して組み合わせて実施する
 現状把握と環境整備がある程度進んだ後、各地域におけるオーバーツーリズムの状況に応じて予防的対応と事後的対応を選択して組み合わせ、具体的な対策を講じる必要がある。具体的な対策には、例えば以下の(3)~(5)の3つの代表的な選択肢がある。

3)需要管理とアクセス制御(需要を管理する):人数制限・予約制・時間帯誘
 オーバーツーリズムは、観光による収入が増える一方で、地域の受入容量(インフラ、環境、住民生活、文化財保全など)を超えた瞬間に負荷が急増するという構造をもつ。したがって発生した混雑や迷惑行為を事後的に処理するのでは遅く、需要(来訪者数・来訪日・来訪時間帯)そのものを「受け入れ可能な範囲」に合わせて事前に調整する対策が必要である。具体的な手段としては、予約制の導入や立入制限の設定による人数制限、時間帯別アクセスフィーの設定による時間帯誘導等があるが、これらの対策はいずれも「地域の受入容量に合わせて需要を調整する」という共通の因果(需要調整→負荷の抑制→資源・生活・体験の維持)に基づく。こうした対策は、運用面の負担増等に留意が必要だが、自然・文化資源、旧市街等における観光客の容量制約が強い場面でも有効な可能性がある。

 (4)住宅市場・宿泊供給への規制(住民生活を守る):民泊やホテル規制・供給量管理
特に都市型観光地では、観光が居住と都市空間に及ぼす構造的な悪影響を抑えるために、民泊やホテルの規制と観光客の供給量管理も重要になる。短期賃貸・民泊等観光用住宅の増加は住宅市場と都市空間の利用配分を変え、家賃高騰や住民流出を通じて居住の基盤を侵食しうる。したがって、観光客の行動に関する上限設定といった供給量の許認可だけでなく、違法民泊等に関する供給の流通経路(例:オンライン広告・仲介・民泊を供給するオンラインプラットフォーマー)を含めた対策にまで取組み、地域住民の生活を守る制度を組み替える必要がある。
 なお、日本では政府や自治体の観光部門が住宅政策に直接関与する事例はまだ少ないとされ、宿泊税を財源として地域住民の住宅を確保する事例も少ないとされる。一方で、海外では税収や観光関連事業者から徴収する負担金を含む観光による収益を使って、地域住民が住宅を確保しづらくなることを防ぐ仕組みが確立されている事例も珍しくないとされることから[20]、住宅市場や宿泊供給への規制をオーバーツーリズム対策として検討する場合は、こうした海外の事例に詳しい有識者の協力を得ながら実施できる対策を練り上げることが適切である。

5)分散化と予約・情報提供(観光客を止めずに散らす):混雑回避・周遊促進・情報発信
 すべての観光地が厳格な人数上限を一律に適用できるわけではない。そこで、観光客の流れを一切止め切るのではなく、時間帯・場所・ルート等の代替案を提示することを通じて周遊を促進したりピーク負荷を平準化して混雑を回避したりする分散型の対策も重要となる。混雑の可視化・予測、リアルタイムの情報発信、代替先提示、交通・駐車管理、イベント予約などを組み合わせることで、特定時点・特定地点への集中を下げて混雑を回避し、質の高い来訪体験と住民生活の両立が期待できる。提供する情報の更新をリアルタイムにするための運用体制を確保する必要があるが、観光客の来訪行動を変えやすい局面で特に有効な対策である。

<改善サイクルの実施>対策の効果測定を踏まえて現状把握と環境整備、対策を定期的に見直す
 常に効果的な対策を講じて持続可能な観光地を維持するためには、定期的に対策の効果を測定して(1)評価・調査の実施と(2)財源確保と受入環境整備の改善に再度取り組んだ上で、状況に応じた個別手段(例:同(3)~(5))の選択と組合せを必要に応じて変更する必要がある。特にインターネットやIoT、クラウド、AI等の情報通信技術(ICT)の観光地マネジメントへの活用方法の進歩は日進月歩であり、今後も国内外で多数の実証実験や社会実装が進んでいくことから、観光政策に精通しつつICT活用に強みを持つ事業者へ相談することが望ましい。

まとめ(対策を組み合わせて地域の持続可能性を取り戻すために)

 本稿では、オーバーツーリズム対策を「混雑対応」に矮小化せず、地域条件に即して組み合わせ可能な判断軸としてとらえ、主要な対策類型を一連する五段階のサイクルとして整理した。
 オーバーツーリズム対策の本質は、観光客を「増やすか、減らすか」という二者択一でもなく、一連する五段階の対策サイクルの中からいずれか一つを選べば足りるというものでもない。万能策はなく、観光を地域の成長機会として活用しながら、同時に住民生活、自然環境、歴史文化、都市構造との均衡をどう保つかという経営課題である。人手や予算が限られる地域ほど、問題が深刻化してから場当たり的に対応するのではなく、地域条件に即した対策手段の選択と組み合わせを通じて、観光の成長機会と地域生活の持続可能性を両立させる必要がある。
 政府は「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」等を通じて、地域の実情に応じた具体策を講じる地域主導の取組を総合的に支援する方針を示している。観光庁の「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」のように参照可能な公開情報も整備されており、対策立案のツールは一定程度揃っている。こうした支援や公開ツールの活用を念頭に、各地域・自治体における対策立案を支援できる事業者も存在することから、オーバーツーリズム対策に成功して持続可能な発展を遂げる地域が今後増える余地は十分にあると考える。
 人手や予算が限られる中、効果的なオーバーツーリズム対策を立案して実施するのは難しいと感じられる地域の方々に対して、本稿が地域経済を持続的に発展させるような観光地マネジメントへの取組を改善するための整理と検討の起点となることを祈っている。(なお、本稿の内容は筆者個人の見解を示すものに留まり、当社富士通株式会社と富士通グループ各社の見解を示すものではない。)

[1] 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月推計値)」
https://www.jnto.go.jp/news/press/20260121_monthly.html
観光庁「インバウンド消費動向調査2025年暦年(速報)」及び「10-12月期(1次速報)の結果について」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00071.html
観光庁「旅行・観光消費動向調査 2025年年間値(速報)」及び「202510-12月期(1次速報)」.
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00074.html
[2] 観光庁「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」.
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/810000952.pdf(持続可能な観光地マネジメントを、データ計測と中長期計画に基づく総合的管理として位置づける基礎資料である。)
[3] 観光庁「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」.
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/810002893.pdf(オーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する関係府省庁対策会議にてとりまとめられた対策パッケージである。)
[4] 外務省「国連外交 世界観光機関(UN Tourism)」における紹介文より。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page22_000759.html
[5] UN Tourism, ‘Overtourism’? Understanding and Managing Urban Tourism Growth beyond Perceptions, Executive Summary, 2018.
https://www.e-unwto.org/doi/epdf/10.18111/9789284420643(住民認識の分析に基づく11戦略・68措置を提示。)
[6] 観光地や観光資源の伝統的な分類方法は一般的なものであっても多数あるが、例えば以下の資料を参照:
日本交通公社「全国観光資源台帳」
https://tabi.jtb.or.jp/about/type/
https://tabi.jtb.or.jp/research/
国土交通省「魅力ある観光地域づくりの秘訣」第2章「観光地の資源特性に応じた効果的取組の把握」.
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/kankohiketu/index.htm
[7] 秋田県公式観光サイト・アキタファン「角館の武家屋敷」.
https://akita-fun.jp/spots/4
[8] 仙北市「第3次仙北市観光振興計画」および概要版.
(観光による市民幸福度・観光客満足度・持続可能な観光マネジメントを理念化した国内事例である。)
[9] 「第3次仙北市観光振興計画」で定められている8つのKPIは、①観光事業従事者の満足度・幸福度向上、②地元産品やサービス等を積極的に活用している観光事業者の割合の増加、③観光産業やイベント、観光交流等に係わる市民の数の増加(以上、KGI(1)達成のためのKPI)、④リピーター率の向上、⑤観光入込客数の増加、消費単価の増加、⑦国外観光客1人当たりの宿泊数の増加(以上、同(2)のKPI)、⑧観光関連要素別の満足度向上(以上、同(3)のKPI。基準は来訪者アンケートの以下要素における「とても満足」と「満足」回答割合の各全体平均:自然景観、町並みや風土・伝統文化、観光・文化施設、アウトドア・アクティビティ、地元体験プラン、温泉、食事、お土産など販売品、宿泊施設、施設や店舗等での接客、イベント・祭り、交通、観光情報・案内、費用や料金、人のあたたかさ)である。
[10] バルセロナ市(Ajuntament de Barcelona, “Over 70% of Barcelona residents see tourism as beneficial to the city”.
https://ajuntament.barcelona.cat/turisme/en/actualidad/noticias/over-70-of-barcelona-residents-see-tourism-as-beneficial-to-the-city-1366912
[11] バルセロナ市, “Barcelona steps up the fight against illegal tourist rentals”.
https://ajuntament.barcelona.cat/turisme/en/latest-news/news/barcelona-steps-up-the-fight-against-illegal-tourist-rentals-1543938
[12] https://elpais.com/economia/2026-04-11/vivienda-obliga-a-retirar-mas-de-100000-anuncios-de-alquileres-turisticos-por-incumplir-la-normativa-desde-2025.html
[13] Forbes, “Barcelona Announces Plan To Ban Tourist Rental Apartments By 2028”.
https://www.forbes.com/sites/isabellekliger/2024/06/21/barcelona-announces-plan-to-ban-tourist-rental-apartments-by-2028/
[14] BBC, “Venice’s new 5 entry fee explained”.
https://www.bbc.com/travel/article/20230928-venices-new-5-entry-fee-explained
[15] 京都市「宿泊税を活用した主な事業」.
https://www.city.kyoto.lg.jp/gyozai/cmsfiles/contents/0000344/344356/25.pdf
[16] 京都観光オフィシャルサイト京都観光Navi「トップページ」.
https://ja.kyoto.travel/
[17] 京都観光オフィシャルサイト京都観光Navi「京都観光快適度マップ」.
https://ja.kyoto.travel/comfort/
[18] 京都観光オフィシャルサイト京都観光Navi「京都観光デジタルマップ~Kyoto Smart Navi~」(京スマ).
https://ja.kyoto.travel/useful/guide/
[19] 沖縄県「西表島観光管理計画の策定」;
奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島世界自然遺産地域連絡会議 西表島部会「西表島観光管理計画」.
https://www.pref.okinawa.jp/kurashikankyo/kankyo/1004287/1004849.html
[20] 公益財団法人日本交通公社、江﨑貴昭「観光振興の先に待ち受ける住宅不足 -観光部門としての向き合い方-[コラムvol.529]」.
https://www.jtb.or.jp/researchers/column/column-housing-solutions-ezaki/

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執筆者

大平 剛史

富士通株式会社 パブリック事業本部パブリックコンサルティング事業部コンサルタント 兼 公共政策研究センター上級研究員

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻博士後期課程修了(博士(学術))。専門はAI・量子技術等の先端技術の社会適用、国際関係論(紛争解決論)、安全保障研究、先端防衛技術研究(デュアル・ユース技術等)、個人の社会適応支援(インクルージョン研究、観光を起点とした社会課題の解決)。
主な研究テーマは、AI、量子技術等の先端技術の社会課題解決への適用方策・政策研究、先端防衛技術研究(欧米・中露のデュアル・ユース技術、宇宙・サイバー・電磁波領域の各技術と統合運用戦略の研究)、仲介の効用を中心とした紛争解決論。
著書に「Reasons for the Success and Failure of Japan’s Mediation for Intra-State Conflicts in Aid Recipient Countries as Their Top ODA Donor: Case Studies of Cambodia (1997-1998) and Sri Lanka (2002-2009)」など。
近年は、政策研究誌や富士通総研オピニオン等にて論文を投稿。また、総務省、国土交通省、内閣府などからの委託研究にも多数携わっている。

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執筆者

鈴木 宙也

富士通株式会社 パブリック事業本部パブリックコンサルティング事業部コンサルタント 兼 公共政策研究センター上級研究員

北海道大学公共政策大学院修了(公共政策学修士(専門職))
中央省庁の調査・研究業務、地方自治体の観光・総合計画策定や、DX推進、官民連携まちづくりの調査・伴走支援業務に従事
前職は組込みシステムエンジニアとして従事
【講演】
R7 観光立国における経済安全保障:パラオを事例に( 太平洋安全保障フォーラム:(2025年3月30日)