地域共生社会の実現に向けて~社会福祉法改正の動向~
- 北海道大学
- 地域共生社会
団塊の世代がすべて後期高齢者となった2025年を経て、今後、いわゆる生産年齢人口が急速に減少していく。社会保障制度は、団塊ジュニア世代が高齢者世代となる2040年に向けて、新たな対応を迫られている。
2026年の国会においては、社会福祉法の改正が予定されている。社会福祉法は、2017年の改正で「地域共生社会の実現」という方向性が位置づけられ、今回の改正は、2040年を視野に、地域共生社会のさらなる実現・深化を目指すものとなる。
地域共生社会の理念等の見直しと過疎地域等での新たな対応
すでに我が国は総人口の減少局面に入っているが、2040年に65歳以上の高齢者数がピークを迎える。高齢世帯・生涯未婚世帯などの単身世帯の増加傾向が続く中で、医療・介護、住まい、貧困など、複数の地域生活課題を抱える世帯が増加し、福祉ニーズは一層多様化・複雑化している。地縁・血縁・社縁といった地域における支え合い機能が低下する中、厚生労働省は、人と人との新たな支えあい・繋がりを地域で構築し、地域と暮らしを守っていく「地域共生社会」の実現が急務と位置付ける。
社会保障審議会福祉部会が2025年12月18日に取りまとめた報告書では、「地域住民の主体性を基礎に、どのような地域にしたいかを自ら考え、今ある人や資源をつなぎあわせ、必要であれば新たに創り出す中で地域を創っていく」ため、「福祉施策の範疇にとどまらず、地域と行政が一丸となり、政策のみならず、地域の資源を最大限活用し、地域住民、関係者が皆で共に地域を創り上げる次なるステージに進むこと」及び「制度・分野間の壁や『支える側』『支えられる側』の枠組みを超え、地域に住む人々同士が支え合い、自分らしく自律的な生を生きることができる地域共生社会が全国に生み出され発展していくこと」が必要であるとする。
今回の改正では、地域共生社会の理念を再整理し、地域共生社会の実現に向けた行政の責務・役割を法律上明確化するとともに、市町村及び都道府県における「包括的な支援体制」の整備(具体的には①地域住民同士の支え合い推進のための環境整備、②支援関係機関同士の連携体制整備、③地域住民と支援関係機関の協働体制整備)の推進に向けて実施すべき施策や役割を明確化する。1990年の社会福祉法改正で創設された「重層的支援体制整備事業」については、質の向上に向けた事業評価を導入する。さらに、過疎地域等で人口減少等により担い手不足が深刻化していく中で包括的な支援体制整備が可能となるよう、相談支援・地域づくり等の配置基準を縦割りの基準ではなく分野横断的な配置基準に柔軟化するとともに、地域と福祉支援体制の連携・協働促進を進める新たな仕組みを導入する。
頼れる身寄りがいない高齢者等を対象とした新たな事業の創設等
今回の法改正で最も注目されているのは、頼れる身寄りがいない高齢者等への対応であろう。頼れる身寄りがいない高齢者等に対する「日常生活支援」「円滑な入院等の手続支援」「死後事務の支援」を行う事業が社会福祉法上の第二種社会福祉事業に位置付けられる。この「日常生活支援」は、地域での生活を営むのに不可欠な支援を行うことを目的とする事業であり、事業内容の例としては、定期連絡等の定期的な見守り、一定額の預貯金出し入れ、福祉サービスの利用料や公共料金等の支払いなどの日常的な金銭管理、福祉サービス利用の手続支援等、通帳、年金・保険証書等の重要書類等の預かりといったことが想定されている。この新たな事業は、社会福祉協議会や社会福祉法人等の多様な実施主体が実施できる。併せて、頼れる身寄りがいない高齢者等を支える地域における支援体制や、実施主体に対する適切なチェック体制が構築される。
また、民法(成年後見制度)の改正と歩調を合わせる形で、権利擁護支援のコーディネートや関係機関の連携強化等を行う事務を市町村の努力義務とするとともに、こうした事務を担う中核機関(権利擁護支援推進センター(仮称))が法定化されることになる。
その他の改正
(1)社会福祉連携推進法人制度等の見直し
1990年の社会福祉法改正で法定された社会福祉連携推進法人において、第二種社会福祉事業や社員社会福祉法人の土地・建物等の貸付支援業務を実施可能にする等の改正を行う。
(2)災害に備えた福祉的支援体制の整備
能登半島地震の教訓を踏まえ、災害に備えた福祉的支援体制について、平時からの連携体制の構築(包括的支援体制の整備を推進するための連携分野に防災を追加、市町村地域福祉計画等の記載事項に災害福祉を追加)、災害派遣福祉チーム(DWAT)の平時からの体制づくり・研修等を強化する。
(3)介護人材の確保・育成・定着等
地域差を踏まえた各地域における人材確保の取組を促進するため、都道府県が設置主体となって、人材確保に関する地域の関係者が地域の実情等の情報を収集・共有・分析、課題を認識し、協働して実践的に課題解決に取り組むためのプラットフォームが制度化される。このほか、若者・高齢者・未経験者などの多様な人材の確保・育成・定着、中核的介護人材の確保・育成のため潜在介護福祉士に係る届出制度の現任者への拡充等、外国人介護人材の確保・定着に向けて小規模法人での外国人材の確保・定着のための支援策の検討、准介護福祉士制度の廃止を含めた対応が検討されている。
おわりに
社会福祉法は、1951年に社会福祉事業法として創設され、戦後日本において政府の機能を補完する社会福祉法人による措置制度が確立された。その後、介護保険制度の創設を契機に社会福祉制度は措置から契約へと移行し、2017年以降は、社会情勢や人口構造の変化の中で全国の地域と人々の暮らしを守っていくための地域社会の再構築、地域共生社会の実現を主軸に改正を重ねてきた。
今回の改正項目はいずれも、高齢化及び人口減少が進展する中において、住民の多様な福祉ニーズに対応し、全国どの地域においても、多様な地域生活課題の解決に資する支援を受けられる包括的な支援体制整備を目指すものである。今回の法改正を通じて、高齢者等を支える地域包括ケアシステムの深化をはじめ、障害者、こども・若者、成年後見の利用者等、地域で様々な課題に直面しているあらゆる人を地域と行政・事業者等が一体となって支える地域づくりを加速し、2040年に向けて、包括的な支援体制の整備が全ての地域へ拡大することを目指した取組が進められることとなる。