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就労継続支援事業所A・Bの監査不足に伴う社会問題と海外事例・AIを活用した解決策 サムネイル

就労継続支援事業所A・Bの監査不足に伴う社会問題と海外事例・AIを活用した解決策

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  1. はじめに:障害のある人が働くきっかけとなっている就労継続支援事業所
  2. 就労継続支援事業所の監査不足に伴う社会問題
  3. 海外事例における解決策
  4. AIを活用した解決策と今後の展望

はじめに:障害のある人が働くきっかけとなっている就労継続支援事業所

 より多くの障害のある人たちが自分の望む形で就労して活躍することは、日本国憲法で定められているような働く権利(憲法第27条)や仕事を選ぶ自由(同第22条)を広く実現するためだけでなく、ここ10年以上毎年人口が減少[i]している日本社会で働き手を確保するためにも重要である。実際、生産年齢人口(15歳~64歳)は1996年から毎年減少しており、総務省によると2050年には5,200万人程度に減少することが見込まれており、障害のある人も含めた様々な人々が望む形で就労を実現していくことが、今後ますます重要になってくる。
 障害のある人が集まって働く就労支援事業所について、日本政府は民間企業の参入を促して事業所の数を増やしており、例えば就労継続支援A型事業所(最低賃金以上を受け取る雇用契約を結んで、必要な支援を受けながら働く場所)と同B型事業所(雇用契約を結ばずに工賃を受け取ることにして、主にA型よりも負担の少ない仕事に従事する場所)の数は、厚生労働省「社会福祉施設等調査」によると2024年時点でA型とB型を合わせて全国で2万事業所を超えている。これらの就労支援事業所(同A型とB型)を利用して働く障害のある人は厚生労働省「令和6年社会福祉施設等調査」によるとを超え、(内閣府「令和7年版障害者白書」[1]による)
障害のある生産年齢人口(ただし精神障害のある人のみ25歳~64歳)の推計合計値194.4万人の3割弱を占めており、障害のある人たちが自分の望む形で就労して活躍するきっかけを作ることに貢献している事業所も多い。 

[1] https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r07hakusho/zenbun/siryo_01.html

就労継続支援事業所の監査不足に伴う社会問題

 その一方で、就労支援事業所(同A型とB型)の数は、厚生労働省「社会福祉施設等調査」によると、過去20年間で約16倍に拡大してきたため、国が地方自治体に求めている障害福祉施設への監査が追い付いていない。地方自治体は概ね3年に1度の監査実施を求められているが、厚生労働省によると、実際には全国平均で約6年に1度に留まっており、令和5年度の監査実施率はであったとされることから[ii]、仮に監査が3年で一巡するべきと考えると1年間では33%なので、令和5年度は目標に対しておよそ半分の実施率に留まると捉えられる。
 本来の制度では、制度の上限枠の範囲内で、ある支援事業所を、より多くの障害のある人が、より長い日数、制度に則して適切に利用して仕事に取り組めば、障害のある人が働いて活躍しながら、賃金や工賃を受け取りつつスキルアップできる場面が増え、支援事業者にはその支援の貢献に応じた給付金が支払われるはずである。しかし実際には、仕事がもらえなかったり、スキルアップができなかったりする事業所が各地で運営されているのである。
 例えば、都道府県等自治体の公表と警察の発表によると、2025年に明らかになった継続支援A型・B型の就労支援事業所の不正は全国で少なくとも37件(うち支援事業所の指定取り消し27件、新規利用者の受入停止6件、営業停止3件、役員ら逮捕1件)である[iv]。就労支援事業所を利用する当事者からは、利用する就労支援事業所で適正な仕事をもらえず、支援も不十分なためスキルアップできないという趣旨の声が多く挙がっており、就労支援事業所の業界団体[v]や就労支援事業所の運営やサポートに携わる専門家[vi]からも、利用者の人数や通所日数などに応じて国や自治体から支払われる給付金[vii]を目当てにした一部の事業所が、国の制度を悪用している実態が報告されている[viii]
 こうした就労支援事業所(同A型とB型)制度が悪用されている現状について、ある程度規模の大きな政令指定都市である自治体の一つは、就労支援事業所への監査には多くの時間を要するため「国の指針を達成するには、指導担当の体制が増加する事業所数に追いついていない」としており、日本政府の担当者も「自治体の人員体制や予算面の課題を認識している」としつつ、自治体による「効率的かつ実効的な運営指導」の実現のため政府として「今後できることを検討したい」旨を公言している[ix] 

 

海外事例における解決策

 このように障害のある人が集まって必要な支援を受けながら就労する場所において、その運営者が制度を悪用して給付金等を不正に受給したり、適正な支援を行わなかったりする事例は日本国内に留まらず、日本国外その対策が講じられている例がある。
 例次に米国の州政府レベルでも、障害のある人々が作る団体からの意見も踏まえて、最低賃金が支払われなかったり障害のある人々だけが集まって仕事をしたりするような職場環境が望ましくないと考えられるようになってきている。その結果、障害のない人々の職場で、障害のある人が共に働く職場環境づくりに公的支援を一本化するような政策を進める州が増加してきており、障害のある人々の団体からも概ね支持されている[xi]
 米国ではさらに、障害を持たない人が働く職場において、軽度だけでなく重度の精神障害を持つ人も含めて、障害のある人が必要な支援を受けながら共に働くよう促す制度の利用が普及してきている。例えば連邦政府と各州政府等の予算に基づいて、州職業リハビリテーション局から職場に派遣され、障害のある働き手の仕事を助けるジョブコーチ等による最長2年以上にも及ぶ職業訓練・職場定着支援等が広く実施されている[xii]。州政府から派遣された支援者が障害のある人の職場に常駐することも珍しくないこうした米国の制度では、障害のある人が職場で適正に扱われてスキルアップできるよう公的な監視の目が行き届きやすくなっていることから、障害のある人向けの就労支援の制度を適正に運用する観点からは、優れていると捉えられる。
 また、英国では科学的根拠に基づく効果的な支援が重視され、実証的な研究結果の国際的なエビデンスにより発達障害者の職場定着に効果があるとされる手法に基づいて、公的支援が行われている。重い発達障害のある人が障害のない人とともに働く職場に、専門的な支援者を国の委託により派遣して障害の有無にかかわらず共に働けるよう支援することを強化する制度が実施されており、英国では労働契約を結ばない福祉目的の就労は存在しないとされる[xiii]。この英国の場合も米国の場合と同様、公的な監視の目が行き届きやすいという意味で就労支援の制度を適正に運用しやすい制度であると捉えられる。さらに、フランスでも、障害のある人の一般就労を目指す「援助付き雇用」(emploi accompagné)が2016年以降、公的制度として整備され、公的機関からの派遣依頼に基づいて、特定の認定を受けた非営利団体が公費で派遣するジョブコーチ(conseillers en emploi accompagné)が普及し、主に精神障害のある人と障害のない人が協働する職場が増えたとされる[xiv]。このように、欧米では一般就労への支援を強化する形で、支援の公正さを確保する取組が進んでいると捉えられる。 

 

AIを活用した解決策と今後の展望

 障害のある人の適正な就労支援を図るため、今後の日本の制度やその運用方法の改善を検討するにあたって、日本の参考になりそうな海外の制度として前掲の米国や英国、フランスの制度例を含めて複数存在する。一方で、欧米ではすでに、障害のある人だけを集めて職業訓練や作業所を運営してスキルアップを図るよりも、障害のない人も協業する職場等でまず雇用してから職業訓練や職場定着の支援を図る方が、障害のある人が働き続けたり健康な状態を保ったりする上で、より効果的であるという多数の実証的な研究結果[xv]や社会的な実践の積み重ねがあり、官民問わず支援を実施する側にも支援を受ける側の団体にも認知されているという点[xvi]が、日本の状況とは大きく異なる。
 国内外の状況にこうした差異があることからも、海外事例等も参考にした日本の制度改革には、制度の検討から政府内における合意形成に始まり、事業者の理解を得る時間も含めてかなり時間がかかることが想定される。そのため、当事者である障害のある人をいち早く助ける課題解決のためには、今後の就労支援制度のあり方に関する時間をかけた丁寧な検討だけでなく、現行の日本の制度のもと、もしくはその細かい修正だけで講じられるような対策についても、併せて検討する必要がある。
例えば、AIを活用した事業者への監査については、就労支援事業所の業界団体[xvii]からもその適用可能性が指摘されており、監査に必要な書類審査をAIに任せる等して、自治体の限られた人員を支援事業所の抜き打ち現地監査に充当するアイディア等が挙げられている[xviii]。実際、支援事業所ではないが、当社富士通株式会社は東京都北区と,AIを活用して請求内容の適正性を分析し、介護保険業務の効率化を図る実証実験を実施した経験があり、技術的には実現可能性は低くないと筆者は考えている[xix]
 さらに、近年技術開発が進んでいるAIを活用した映像解析により、カメラで撮影した動画から顔を除いても全身等の特徴に基づいて他の人物と異なることを効率良く照合することができるようになってきている。例えば当社は「顔などの情報が写っていない映像からでも人の歩き方(以下、歩容)をもとに人物を高精度に照合できる歩容照合技術」を開発しており9割程度の精度を実現済みである[xx]
 そのため、技術開発の面でさらに一歩進めば、個人情報を保護するため、特定の個人であることを推定できないような体の動きに関する記録データを活用して、して、適正な支援が行われていない場合をAIが自動検出できるような技術が、日本国内で比較的早期に実現される可能性も十分あると筆者は考えている。例えば、当社が実現済みの「姿勢認識AI技術をベースにしたコンピュータビジョンを活用したデータ解析」技術[xxi](身体表面にマーカーやモーションセンサーを取り付けることなく、体操競技の採点を行うシステムで培われた技術)を応用することで、個人を特定できてしまうような実画像ではなく、個人を特定できないよう体の関節同士を線で結んだいわゆる棒人間のような像で人の動きを記録し、各動作主体の特徴量の差異から個別の人間であることを把握しつつ、ある日にどの程度の数の人々がどのような作業や支援のために動いているかを分析することが想定できる。このようにして複数日分の実態把握と分析を行えれば、個人を特定することなく、支援事業所における実稼働人数や日数、支援実態が給付金申請等のための提出書類上の数値と大きく異なることがないかどうか、チェックするのに役立つようになるのではないかと考えている。
 もちろん、新技術の導入においては、法的・倫理的に問題がないだけでなく、実際の監査対象事業所で働く人々の気持ちについても配慮するよう、現場での利用者等からのヒアリングを十分に行いつつ、慎重な導入検討作業が必要であることは間違いないが、制度改革よりも早く実現できる可能性は十分にある。こうした例のように、人手を節約できる何らかのAIを活用した監査が可能になれば、自治体の少ない人手を、支援現場での聞き取り調査等、より重要な業務に集中させることができるようになると考えられることから、可能性のある技術が育ち、障害のある人を中心に現状64万人が利用する2万を超える全国の就労継続支援事業所において、より多くの障害のある人が適正な就労支援を受けられるよう、必要な監査が進むことが望まれる。そのうえで、長期的には、海外で適用されている制度も必要に応じて参考にしつつ、より多くの障害のある人々が自分の望む形で、障害のない人々とともに働いてスキルアップできるようになるよう就労支援制度を変えていくことが望ましいのではないだろうか。(注:本稿で筆者が示した見解は当社の見解を代表するものではなく、筆者の個人的見解に留まることに留意されたい。)

[i] https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2024np/pdf/2024gaiyou.pdf
[ii] https://www.nhk.jp/g/ts/J89PNQQ4QW/blog/bl/pWnN2X89EW/bp/paeX9wGpP4/
[iii] 利用者1人につき月額平均で14万円から20万円程度とされる。
[iv] 日本放送協会の調査を基に筆者が集計した数値
[v] 例えば就労継続支援A型事業所全国協議会理事で元厚生労働省東京労働局長の村木太郎氏
[vi] 例えば日本財団公益事業部の竹村利道氏
[vii] 利用者1人につき月額平均で14万円から20万円程度とされる。
[viii] https://www.nhk.jp/g/ts/J89PNQQ4QW/blog/bl/pWnN2X89EW/bp/paeX9wGpP4/
[ix] https://www.nhk.jp/g/ts/J89PNQQ4QW/blog/bl/pWnN2X89EW/bp/paeX9wGpP4/
[x] https://www.ada.gov/resources/olmstead-employment-qa/
[xi] https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001475050.pdf
[xii] https://www.acces.nysed.gov/vr/131000-supported-employment-policy https://www.ecfr.gov/current/title-34/subtitle-B/chapter-III/part-363/subpart-A https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001475050.pdf
[xiii] https://questions-statements.parliament.uk/written-questions/detail/2025-11-10/89204/
[xiv] https://travail-emploi.gouv.fr/lemploi-accompagne https://travail-emploi.gouv.fr/les-etablissements-ou-services-daccompagnement-par-le-travail-esat https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001475050.pdf
[xv] https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.2975%2F31.4.2008.313.317
[xvi] https://www.centreformentalhealth.org.uk/what-ips/
[xvii] 例えば就労継続支援A型事業所全国協議会理事で元厚生労働省東京労働局長の村木太郎氏
[xviii] https://www.nhk.jp/g/ts/J89PNQQ4QW/blog/bl/pWnN2X89EW/bp/paeX9wGpP4/
[xix] https://www.innervision.co.jp/sp/products/release/20180327
[xx] https://pr.fujitsu.com/jp/news/2022/07/22.html
[xxi] https://docs.fujitsu/documents/003098/fujitsu-markerless-motion-capture-catalog-jp-v1.0.pdf

執筆者のイメージ

執筆者

大平 剛史

株式会社富士通総研 コンサルタント 兼 公共政策研究センター 上級研究員

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻博士後期課程修了(博士(学術))。専門はAI・量子技術等の先端技術の社会適用、国際関係論(紛争解決論)、安全保障研究、先端防衛技術研究(デュアル・ユース技術等)、個人の社会適応支援(インクルージョン研究、観光を起点とした社会課題の解決)。
主な研究テーマは、AI、量子技術等の先端技術の社会課題解決への適用方策・政策研究、先端防衛技術研究(欧米・中露のデュアル・ユース技術、宇宙・サイバー・電磁波領域の各技術と統合運用戦略の研究)、仲介の効用を中心とした紛争解決論。
著書に「Reasons for the Success and Failure of Japan’s Mediation for Intra-State Conflicts in Aid Recipient Countries as Their Top ODA Donor: Case Studies of Cambodia (1997-1998) and Sri Lanka (2002-2009)」など。
近年は、政策研究誌や富士通総研オピニオン等にて論文を投稿。また、総務省、国土交通省、内閣府などからの委託研究にも多数携わっている。