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地方中小企業の海外展開の始め方:国の補助金を活用した直近約30事例の支援で見えた実務上のポイント サムネイル

地方中小企業の海外展開の始め方:国の補助金を活用した直近約30事例の支援で見えた実務上のポイント

  • 中小企業
  1. はじめに:筆者の問題意識
  2. INDEX
  3. 第1段階:補助金制度活用の検討
  4. 第2段階:補助金制度への「応募」
  5. 第3段階:補助金採択後の補助金の「活用」
  6. 第4段階:補助金活用状況の最終報告・「精算」
  7. 第5段階:補助金精算後の事業「展開」
  8. おわりに:「複数年の補助金活用は補助金頼りにつながるか」への答え

はじめに:筆者の問題意識

 どうすれば、地元企業の海外展開を進めて、地元の産業振興に弾みをつけられそうなのか。

 長年、地元経済を支えてきた地方の中小企業が、今後も地元の雇用を支えながら、地域経済の担い手として存続していくために、人口減少で市場が縮小している日本国内の活動に加えて、海外市場の獲得に向けて、海外展開事業に取組む事例が数多くある。独立行政法人中小企業基盤整備機構の調査「中小企業の海外展開に関する調査(2024年)アンケート調査報告書」[i]によると、アンケートに答えた全国1,000社の中小企業のうち「海外展開を行っている」と答えたのは13.3%であり、「海外展開は行っていないが、予定はある」と「海外展開は行っていないが、関心はある」とも合わせると31.0%である。

 筆者が所属する弊社(富士通株式会社)グループでは、これまで国の補助金を活用した地方中小企業の海外展開の支援に取組んできた。例えば2023年度と2024年度には、ある中央省庁の事業として、地方の中小企業が持つ技術を活かした海外展開を対象とする補助金制度の事務局を運営し、延べ30以上の地方の中小企業の海外展開の伴走支援を実施した。

 筆者[ii]は、これまで学会発表[iii]や論文発表[iv]等で地方の中小企業の海外展開に関連する研究に従事してきた。この経験を活かして、筆者は、この補助金制度の事務局の立ち上げから伴走支援の実施までに携わってきた。具体的には、防災・交通、医療・介護、エネルギー・産業(工業、農林水産業、観光、飲食業等含む)、環境対策、文化・学術、教育、宇宙、金融、スマートフォン関連等の各分野において、アジア・太平洋、欧米、アフリカ等の各地域に展開する、北海道から沖縄までの日本各地の地方中小企業による海外事業約30事例の伴走支援に、2024年度末まで日常的に従事してきた。

 そこで本稿では、2024年度末まで筆者が日常的にこの約30事例の伴走支援にあたるなかで見えてきた、国の補助金を活用した地方中小企業による海外展開の実務上のポイントについて述べる。すなわち、補助金への応募から獲得、海外展開の開始と、年度末締めが多い補助金の精算への対応、2年目以降への繋げ方までの時系列順に、実際に生じた事例と対処の実例をもとに、海外展開に挑戦する地方の中小企業の視点に立って実務上の各ポイントを端的に示す。具体的には、下図<補助金活用のプロセス5段階と【課題例】>に示すように補助金活用のプロセスを5段階に分け、各段階での代表的な【課題例】に答える形で、後掲INDEXの順序で順を追ってポイントを示していくので、公的な補助金制度に詳しくない方も安心して読み進めていただきたい。

<補助金活用のプロセス5段階と【課題例】>

出所:富士通株式会社作成

 また、以降の説明では、地方をはじめとして人口が減り続ける国内市場の不振や今後の展望に不安を感じる中小企業の方々だけでなく、どうすれば、国の補助金を使いながら地元企業の海外展開を進めて、地元の産業振興に弾みをつけられそうなのかが気になる、地方公共団体等で企業支援業務に従事されているご担当者にとっても、現状認識に資する有益な情報を提供できるよう努める。
具体的には、机上の理想論や、一般的に知られていない概念の提示はなるべく控えた上で、実際に生じた事例を根拠とした説明となるよう努める。なお、本稿は筆者の個人的見解を示すものであり、筆者の所属企業や国、またはその他の事業者の見解を代表するものではない。

INDEX

1段階:補助金制度活用の「検討」

【補助金制度検討の鍵】 「縦割り行政」への留意

2段階:補助金制度への「応募」

【補助金への応募時の鍵】 「文書主義」への留意
 ・公募に関して得た情報の正確性の確保:発信源は応募審査者か、情報の送り手と受け手に誤解はないか、募集要領は一言一句意味を確かめたか

3段階:補助金採択後の補助金の「活用」

【補助金採択後〜正式契約までの鍵】 多数の支援・協力者への素早い相談・連絡
 ・支援・協力者への相談・連絡でスタートダッシュをかけるために:メール連絡術を駆使する
【補助金の正式契約後の鍵】 海外展開の「取っ掛かり」のつかみ方
 ・海外展開の「取っ掛かり」がつかみづらい場合:海外展開先の地方・中央政府等から返事がない時のポイント
 ・「取っ掛かり」が実を結んだ理由:30以上の地方の中小企業の海外展開事例を踏まえて

4段階:補助金活用状況の最終報告・「精算」

【補助金の精算への対応の鍵】 繁忙期の年度末締めまでの事前準備
 ・補助金の精算に向けた事前準備を少人数で乗り切るためのヒント:文書主義の活用と正直な相談

5段階:補助金精算後の「事業展開」

【海外展開の2年目以降への繋げ方の鍵】 準備は1年目の報告書から

第1段階:補助金制度活用の検討

【補助金制度検討の鍵】 「縦割り行政」への留意

 この段階で筆者が最もよく耳にする課題例は「補助金が見つからない」というものである。どうすればよいか。

 省庁を横断して補助金を検索することができる政府のサイトとして、デジタル庁のjGrants[v]というサイトがある。本稿執筆時点(2025年8月1日現在)では、海外展開を含むカテゴリを指定した検索もできるので、試していただく価値はある。もしこのサイトの検索で自社に適切な補助金が見つかれば良いが、入力した条件に合致した補助金が複数あったり、逆に1件もなかったりする場合には、補助金を所管する省庁の担当者に相談した方が、自社の事情にマッチした補助金制度に巡り合える確率が格段に高まるだろう。また、もし検索結果が補助金制度1件だけであったとしても、本当にその補助金制度が自社の事情にマッチしているかどうかは募集要領等の書類を読んだだけでは確信が持てないこともあるし、自社の事情によりマッチした別の補助金制度があるかもしれない。複数の補助金に同時に応募することは、各補助金の募集要領の規定上問題なければ一応可能ではあるが、人手が足りない中小企業の方々にとっては、1件の補助金に応募して採択を目指すだけでも相当程度の事務コストの負担を感じることが多いため、一度に応募する補助金はなるべく絞り込んでおいた方が、より現実的である。

 中小企業を支援する省庁のうち、公的な補助金で利用できるものを選ぶ際にまず相談できるのが、文字通り中小企業を所管する中小企業庁である。中小企業庁の公式WEBサイトには各種問合せ窓口の他、代表窓口の電話番号も掲載されているので、迷ったらまず電話して相談先を探してみるのも良いだろう。ただし、中小企業庁は経済産業省の外局、すなわち経済産業省が管理する官庁なので、それ以外の省庁(例えば総務省や環境省、農林水産省等)の補助金制度全てについて、窓口担当者が必ずしも網羅的に詳しいわけではない可能性があることに注意が必要である。

 政府全体の補助金制度のうち、中小企業が利用できる可能性のある制度を最も網羅的に紹介できるのが中小企業庁であると考えることはたしかに間違ってはいないかもしれない。一方、現実問題として、毎年度更新される各省庁の様々な補助金制度に一番詳しいのは、各補助金制度を所管する各省庁自身であることが多いと筆者は実感している。そのため、中小企業庁への相談に加えて、自社事業に関連のありそうな省庁の公式WEBサイトから相談窓口や代表窓口の電話番号を見つけて、各省庁に相談してみることも、自社に最適な補助金制度に巡り合うために、ぜひ検討していただきたい。また、所管していた官庁の公式HPから、当該自治体を所管する地方局や地方事務所等の連絡先を見つけて、相談してみることも有効であり、実際、筆者の知る事例ではそのようにして応募する補助金制度を決めた中小企業の事例が複数ある。

 なお、もし最寄りの自治体の窓口(役所や役場、都道府県庁にあるもの)で中小企業支援を担当する部局に相談することができるのであれば、たとえ補助金制度の最新情報は詳しくわからなかったとしても、これまで当該自治体のどのような業種の中小企業がどの補助金制度に採択されたかについて、わかる場合もある。さらに、インターネット上で公開されている情報をもとに、自社から近くに所在していたり、自社と比較的近い業種や分野であったりする過去の補助金採択事業者と連絡を取り合うことができる場合もある。このような場合は、補助金制度を利用した事業運営の不安を取り除くきっかけになるかもかもしれない。筆者が公的な補助金制度の事務局業務を通じて海外展開を支援した中小企業のうち、そのようなきっかけをつかんで応募する補助金を決めた事例もあった。

第2段階:補助金制度への「応募」

【補助金への応募時の鍵】 「文書主義」への留意

 この段階で筆者が最もよく耳にする課題例は「採択される書類の書き方が不明」というものである。公募開始から応募締切までの短期間で書く応募書類では、評価基準と指定項目に対して一問一答、素直かつ具体的な記載を心がけることが重要である。「審査担当者の方も人間であるから、心情に配慮して、多少長くなっても丁寧な言葉遣いで説明したり、添付資料も充実させたりした方が良い」と考えていると感じられる応募を筆者は多く見てきた。しかし、補助金採択の成否においては、このような対応よりも、応募書類の中で評価基準と問われている指定項目に対して、短く率直に、つまり、一対一、一言一句で対応させる応募書類の文章構成を作って、素直かつ具体的な記載を短い文章に盛り込めていたかどうかの方が重要であると筆者は考えている。そうではない場合は、例えどんなに丁寧な言葉遣いの文章に加えて見栄えの良い図表や別添資料が揃っていたとしても、補助金採択の審査で高得点を得るのは難しいと考えた方が良いと考えている。

 次に、公的な、特に国の補助金では「公式文書に書いてあることが全て」という意味でのいわゆる「文書主義」を原則として応募者側が対処しないと、応募者側が面食らうことがあることに注意が必要である。極端に言えば、担当者や責任者の方から口頭で何か確約されたように感じられても、聞き間違いや勘違いかもしれないので、文書作成者の所属組織名と氏名、日付、主語と目的語、記載事項の対象等に関する明確な記載が揃ったメールや文書でのやり取りがない事柄は、早とちりしないように注意が必要、という程度に心得ておいた方が安全である。実際にそのような事例がどの程度の割合で生じるかどうかはともかく、筆者はこれまでに、そのように心得ていないために苦労した事業者の方々を目の当たりにしてきた。

 一方で、こうした明確な記載が揃ったメールや文書に定められた事柄や規定は、補助金の獲得するためには省略することができない、という程度に捉えておいた方が良い。文書の記載についての解釈に迷う事柄は、こうした明確な記載が揃ったA41枚程度の「質問書」等の文書やメールの形式で、事務局経由で所管官庁に提出して問い合わせて、正式な回答を文書で得て保存しておいた方が、より安全である。

 

公募に関して得た情報の正確性の確保:発信源は応募審査者か、情報の送り手と受け手に誤解はないか、募集要領は一言一句意味を確かめたか

 問い合わせは地方事務所ではなく、インターネット上に公開されている補助金事務局の連絡先に対して、もしそれが見つからなければ、インターネット上に公開されている補助金の国の担当部局の連絡先に対して実施することが重要である。確かに地方事務所の方々は頼もしい存在である場合もあるだろうし、普段付き合いがあるので身近に感じられていろいろ聞きやすいと感じられることもあるだろう。ただ、地方事務所が主催する補助金でない限りは、やはり聞きづらくても運営主体自体に問い合わせるのが誤解やミスコミュニケーションを防ぐための基本である。

 運営主体が違うのだから、場合によっては、地方事務所の方々に聞いたと思ったことやその解釈とは異なる方針で補助金制度が運用されているように事業者側が感じてしまうこともあり得る、という極端な程度に捉えておいた方が、より安全である。筆者はそのように捉えておいた方がよかったと感じられる事態、具体的には地方事務所の方々から聞いたと思ったアドバイスをもとに準備した事業者の方々が、実際の制度の運用状況と準備した事項との差異に直面して困っている事態を、これまでに複数回、目の当たりにしている。

 ただし、相手がたとえ国の本省の担当者の方々や事務局の方々であっても、口頭で聞いたことは、誤解やミスコミュニケーションを生じさせないために、聞いた直後にメールで「電話で以下のように聞いたと認識しましたが、もし違えばご指摘ください」等と最低限でも確認をとっておくことが重要である。人間同士なので、聞き間違いや解釈の違いをゼロにはできないとしても、可能な範囲で対策を講じておくことが、制度利用の際の心がけとして重要である。

 さらに、募集要領等の記載「及び」や「ことがある」等の、一見すると言葉尻のようなことにも注意が必要である。日常の私企業同士の取引では問題になりづらい表現の意味の解釈が大きな差を生むこともある。例えば「A及びB」とは、ABも両方という意味であると捉えた方が、より安全であるし、「ことがある」とは、あくまで可能性を示すだけで、そうでない場合もあるため、注意が必要であると捉えた方が、より安全である。

 少し補助金に慣れてきた応募者が陥りやすい危機の一つに「他の補助金ではこうだった」「今回応募する補助金を所管する省庁や部署では過去このように判断されていた」「国の地方事務所にこういうアドバイスを受けた」等というような各種の経験則や思い込み、必ずしも最新の正確な状況を把握できるとは限らない情報源から得た情報等をもとに、時間と手間をかけず不確定的な情報収集をもとに判断してしまいたくなるという誘惑が挙げられる。このような誘惑に負けてしまうと、当該補助金の規定を逸脱したり、規定されていないことを独断したりしまうおそれが高まる。このような場合、後に当該補助金の事務局を通じた通達や契約上の規定事項への適切な対応が難しくなったり、その結果として、余計な時間的・金銭的コストが生じてしまったりする可能性もある。これまで筆者が支援事例で目の当たりにしてきた事業者の方々の苦労を鑑みても、常に前述の文書主義に則った対応を進めた方が、より安全であると筆者は考えている。

 国はほとんどの場合、国民から納付された大切な税金をもとに補助金事業を実施している。よって、省庁が会計検査院による事業終了後の監査等の場面を通して、補助金の使途に関する国民への説明責任を果たすためにも、各補助金事業で定められた規定を逸脱するようなことは、ほぼ認められないと心得ておくことが重要である。つまり、私企業同士の取引とは異なり、後で交渉すれば規定外のことでも何とか認めてもらえる可能性がある、ということはほぼないと想定しておいた方が安全である。

第3段階:補助金採択後の補助金の「活用」

【補助金採択後〜正式契約までの鍵】 多数の支援・協力者への素早い相談・連絡

 補助金採択後に筆者が最もよく耳にする課題は「採択されたら何から着手すれば良いかが不明」というものである。補助金の事務局は採択手続きから正式契約までの間多忙であることが多いことから、個別の採択企業の事業に則したきめ細やかな課題解決の方法を指南することが難しいこともある。そのため、まず、補助金に採択された後から補助金の正式な契約締結までの鍵について述べる。

補助金採択後から正式契約までの期間に、できることを、なるべく早くかつ多く進めることが、その後の補助金対象期間における海外展開の進展につながる。採択後に多くの提出書類を求められることがあるが、書類の審査のために時間が空くことがよくある。採択直後に多くの書類を短期間で準備した後、ほぼ何も提出を求められない場合、ほっと一息つきたくなる心情は筆者も同じ人間として共感できる。しかし実務上は、補助金の正式な契約締結を待つこの間に、スタートダッシュを切るための準備を進める必要がある。

 契約書の締結前にした支出が補助金の精算対象にならないことが規定されていることもあるため注意が必要だが、そうした前提のもとでも、その間に在外公館(日本が外国に置いている大使館)や国の機関(JICA(ジャイカ:独立行政法人 国際協力機構)JETRO(ジェトロ:独立行政法人 日本貿易振興機構等)、地元都道府県の担当部局や国の地方事務所(補助金の所管官庁が各地方に置いている場合も多い)、日本にある海外展開先政府の出先機関(在日大使館等)等に複数かつ同時に連絡することが重要である。各自の反応に時間を要することがよくあるからである。

 具体的には、採択された補助金の正式名称、その補助金のインターネット上の公募情報URL、採択を知らせるメールや通知書、募集要領のPDFファイル、採択された提案書等を添付書類一式としてメールで共有しながら、「今後打つべき一手を相談したい」との旨の連絡を始めた方が良い。場合によっては、補助金の事務局自体にも相談機能が備わっている場合もあるが、やはり「餅は餅屋」で、事務局よりも常設組織の方が、より多くの最新情報を持っていることがほとんどであるため、事務局だけに頼るよりメリットが大きい。

 単年度内に成果を求められる補助金も多い中、採択から正式契約までの間に時間がかかることも多いため、また、相談したり助言を受けられたりする公的機関は国内外ともに多忙で反応に時間がかかることも多いため、正式契約後にスタートダッシュをかけるための準備をこの期間にどれだけ進められるかは、大きなポイントである。

 多忙な公的機関への連絡の際は、メール1通だけ、電話1回だけ、では短期間に的確かつ確実な回答を得ることが難しい場合も多い、程度極端に捉えておいた方が安全である。また、「まず一度お会いしてご挨拶してからご相談したい」という丁寧なお願いは、礼儀を重んじる立場やお付き合いを大事にする立場としては妥当である一方、短期間に多くの対象に相談や支援を依頼しなければならない、このような場合においては、最初の一手として必ずしも最適解ではないと心得た方が良い。筆者が支援した事例でも、面会にこだわってスタートダッシュがかけられず、他の事業者に比べて海外展開が遅れた事業者の方がいた。

 

支援・協力者への相談・連絡でスタートダッシュをかけるために:メール連絡術を駆使する

 ではどのようなスタートダッシュの取組が実を結んでいるのか。まず、例えば、具体的な相談内容をメールにまとめた上で、前述の添付書類一式とともに複数の公的機関に同時に送りつつ、初回メールの連絡に加えて、あくまで礼儀正しい文面の催促のメールを3日程度に一回はリマインドとして実施しても良いだろう。電話は、通話時間が短いものなら概ね許容されるが、事前に日程調整をせず、いきなり相手の時間を奪ってしまうような電話連絡は、喫緊の場合を除いて出来るだけ謹んだ方が良い。また、忙しい相手に対応してもらう以上、相手のタスク管理の負担を減らすためにも、いつまでに返事が欲しいかを最初の連絡から、常にはっきり明示した礼儀正しい連絡を続けることが必要である。

 オンライン会議、それが難しい場合は、まずは電話相談でも構わないから、少しだけ話を聞いて欲しい、もしくは、メールでしか回答が得られない場合は、詳細な回答が欲しい、と後追いのメールで知らせても良いだろう。メール文面では当然、多忙な相手に配慮した礼儀正しくわかりやすい文面を保つ必要がある。ただし、補助金で定められた事業実施期間が例えば1年度未満と短いため、海外展開先の現地アポイントメント獲得に時間がかかることを見据えて、いつまでに返信をいただきたいかを明示することが重要である。期限を区切るメールであっても、このようなメール文面で繰り返し公的機関に働きかけ続けることは、海外展開に取組む事業者の方々の真摯な態度として省庁から許容されてきたと筆者は実感している。実際、筆者が支援した事例でも、相談依頼メールが前述の添付書類一式とともに公的機関の中で何人もの担当者の間で転送されたとしても、補助金に採択された中小企業に必要な公的機関との相談がいくつも叶えられてきた。丁寧なメールを細かく駆使する事業者の方々は概して公的機関と関係を築くのが速いという印象がある。

 なお、筆者の支援した中小企業の事例から、補助金の正式な契約日付前の支出が補助金の精算対象外となるとしても、同契約日以降はすぐに海外展開先で動けるよう、前述の公的機関以外にも、海外展開先で協力してもらう海外事業者や実証実験等の許可や協力を得る必要がある海外展開先の地方・中央政府にメール連絡等のアプローチを開始できるのであれば、この段階で併せて実施しておいた方が、後々慌てないで済む可能性が高まる。特に日本語ではなく英語等を中心とした国際的なコミュニケーションの場合、日本におけるメールのやり取りよりも反応が遅かったり、早かったとしても早合点であるために何度もやり取りが必要であったりすることが、グローバルスタンダードである、という程度に腹を括って、とにかく早くメールを送ってから細かい相談内容を考えようとするぐらいの方が、リスク管理の観点からも担当者の方の心理的負担の観点からも望ましいとさえ筆者は考えている。この点では、短期間の間に取り返しのつく範囲でトライアルアンドエラーを素早く繰り返すという意味で、アジャイル開発のような感覚の方が海外展開の序盤にマッチしているのではないかと思っている。

 

【補助金の正式契約後の鍵】 海外展開の「取っ掛かり」のつかみ方

 補助金の正式契約日が分かり次第、できれば分かったその日等なるべく早いうちに、海外展開先にある日本の在外公館(日本が外国に置いている大使館)や国のその他の機関(JETROJICA)、日本にある海外展開先政府の出先機関(東京にある大使館等)等に複数かつ同時に連絡して、正式に動けるようになる日を一刻も早く伝えることが重要である。これまでの段階で、すでに連絡や相談をしていれば、単に日付がわかったというメールの連絡だけなので連絡のハードルは低くなっているはずである。もし可能なら、それと同時に、海外展開先での活動に必要なオンラインもしくはオフラインのアポイントメント取得の支援も要請すべく、改めてメールでの連絡とそれをフォローする督促連絡等を、複数かつ同時に、いかに早く始めるかがこの時点での鍵となる。どのチャネルから適時の返答が得られるか、得られたとしても海外展開を進めたい事業者の方々の都合に合う返答内容かどうか、両方とも判然としない中、リスクヘッジは必須である。

 次に、海外展開先で協力してもらう海外事業者や実証実験等の許可や協力を得る必要がある海外展開先の地方・中央政府にも「いつからいつまで海外展開先で活動できることになったか」等を伝えつつ、メール連絡等のアプローチを本格化させる必要がある。その際、改めて、日本のどの省庁のどの補助金の事業として海外展開先で活動したいのか、そして、当該展開先にある日本大使館、JICAJETROの現地事務所にも相談していることをはっきりと明示して連絡をした方が良い。それぞれの英語正式名称もメールに含めた方が安全である。補助金の英語名称は事務局を通して所管省庁に聞いた方が良い。場合によっては展開先の政府から日本の政府に照会されることがあるからである。

 日本国内のビジネス感覚からすると、あたかも国の威光をかざしているようで憚られる向きもあるかもしれない。しかし、逆の立場で冷静に考えてみると、外国の聞いたことがない中小企業から、いきなり「話を聞いてくれ」との趣旨のことを言われた時に、多忙もしくは場合によっては「対応せざるを得ない仕事以外はしたくない」と考えている可能性もある担当者の方が、上司や適切な他の担当者の方等に連絡を取り継がない可能性もあることを十分認識した方が安全であると筆者は考えている。筆者が目の当たりにした極端な例では、初回のメール連絡から一向に返信がなかった外国の相手先に対して、国の補助金の事業であることを示そうとして、メール件名の冒頭に「Japanese government’s project」との趣旨を書いて送った途端、相手からすぐ返事があったという事例も実際にあった。

 

海外展開の「取っ掛かり」がつかみづらい場合:海外展開先の地方・中央政府等から返事がない時のポイント

 

 上記のような手を尽くしても、なかなか海外展開先の地方・中央政府から返事がなく、思わず途方に暮れそうになる場合もあるだろう。そうした時に頼りになる可能性があるのが、現地の地方・中央政府と仕事をしたことがある現地の事業者である。できれば展開先現地出身のスタッフを要する現地の事業者が良い。こうした現地事業者とつながれた事業者の方々は、筆者の支援した事例でも思わぬ糸口を見つけられていた。

 補助金を活用した海外展開の取組ではコンプライアンス上問題のある手段は日本国内の事業と同様一切使えず、また、正式に現地コーディネーターを短期間の検討だけで直ちに雇うのも費用や時間の面で現実的でない場合が多い中でも、そうした現地の事業者に対して、地方・中央政府が現地事業者とのやり取りに使っている主なコミュニケーションのツールの種類や具体名は、比較的すぐ聞くことができる場合は少なくない。

 例えば、公的なメールアドレスや電話番号は持っていても、実際の業務の大半の場面ではGmail等のフリーメールやWhatsApp等のSNSを主に使っている公務員が多い海外展開先もある。このような場合は、相手が使うコミュニケーションチャネルを特定した上で、それにつながりそうな現地協力者を選定して支援を受けながらアプローチを図っていくことで、事態を打開した事例が筆者の支援したものだけでも複数存在する。ただし、具体的なアカウント名やアドレスを聞く場合は、個人情報の真正性(つまり、本当に連絡したい相手のものであるかどうか)に十分注意する必要があるし、個人情報の定義と取扱いに関する現地と日本両方での法令遵守が条件である。

 このようにして、国の補助金の正式契約を経て海外展開の「取っ掛かり」をつかめば、すなわち、日本の政府・公的機関等に相談できる体制と、海外展開先の政府・公的機関とのつながりができれば、補助金の対象となる支出を伴う具体的な海外展開の活動は、紆余曲折ありつつも、なんとか進むことが多いと筆者は感じている。端的に言えば、始めが肝心、と筆者は捉えている。

 

「取っ掛かり」が実を結んだ理由:30以上の地方の中小企業の海外展開事例を踏まえて

 本稿の冒頭で挙げた筆者が支援に従事した延べ30以上の地方の中小企業の海外展開事例においても、「取っ掛かり」を掴めてからは、すべての事例がなんとか進み、1年目の終わりには当初の計画通りか、それを若干修正する程度の計画の修正を経て、当初想定程度かそれを上回る成果を出せた事例がほとんどであった。また、当社想定程度を下回る成果となった少数事例においても、当初想定を大幅に下回る成果にとどまった事例はなかった。なぜだろうか。考えられる理由を時系列順に述べる。

 第一の理由は、補助金に採択された時点で、ある程度見込みのある事例が出揃っていたと考えられる。国の補助金の審査は、税金を使う事業であることから、特に、採択者の最大数が例えば20事業者程度までと限られたもので、なおかつ補助金額がある程度多額であれば、当初の成果の見込みを応募書類の文章から合理的に説明できない応募は、ほぼ採択されないと言って良い。応募書類に何を書くべきかについては、あくまで補助金の募集要領の規定が優先する事項だが、その規定の範囲内で、海外展開の実績がなくても、国内市場における実績や、保有技術の優位性や有用性の裏付け等が客観的に立証できること、すなわち、応募書類の内容に誇張や無理がないことも審査で確かめられる。よって、補助金に採択された時点で一定の見込みがあるのである。

 第二の理由は、補助金の採択後から例えば月次報告や中間報告という形で補助金の事務局から進捗管理や指摘を受けながら、計画を微修正しつつ海外展開に取組んでいくことになり、基本的なトライアルアンドエラーのPDCAサイクルを繰り返し実施することになるからと考えられる。採択事業者の方々だけでなく、補助金の事務局も所管官庁も、補助金の効果的な使われ方を実現するミッションを与えられて活動をしているため、補助金の対象期間に成果を出せるよう、様々な形で支援を試みる。

 第三の理由は、その他にも、補助金に採択された事業者の方々が努力を重ねる仕組みがあるからであると考えられる。まず、補助金に採択されたとしても、その対象期間の海外展開にかかる支出は当初、各採択事業者が支払い、対象期間の事業が終了してから所定の審査を経て、精算払いで補助金を受け取る。よって、この所定の審査で補助金の規定を満たす適切な支出であると認められるような一定の成果を挙げるために、採択事業者の方々は努力することになる。また、応募時点から契約までの必要書類の作成を行う過程と、月次報告と中間報告を行う過程だけでも、国の基準を満たすよう何度も書類を作成し、時には書類の構成レベルから文体にいたるまで細かいアドバイスを受けたり修正依頼にも対応したりしながら、情報処理・表現の能力を鍛えることになる。もし、海外展開先等で展示会に出展するのであれば、主催者からのアドバイスや、他の出展者の情報の整理・発信の方法を学ぶことにもなるだろう。

 第四の理由は、中小企業を含めて、日本の真っ当な企業の製品・サービスに対する海外でのイメージがそもそも概して悪くない、という状況であることが考えられる。日本の外務省が2022年度から2024年度に実施した「海外における対日世論調査」[vi]によると、北米、欧州、ASEAN、中央アジア、中東、アフリカ、中南米の調査対象国の人々が「日本に対して抱いているイメージ」は「経済力、技術力の高い国」という回答が概ね半数以上(米国のみ半数弱)であった[vii]。つまり日本の「技術力」への評価は「とても良い」とは言えないかもしれないが、悪くはない。よって、日本の真っ当な中小企業の製品・サービスについても、海外展開の「取っ掛かり」をつかんで海外展開先の人に話を聞いてもらえる機会さえ得られれば、初対面のイメージは、少なくとも技術的には概して悪くはないと考えている。実際、筆者が触れた複数の事例では、初対面の相手から、価格と現地法規上の許認可さえクリアできれば、すぐにでも契約したい、と海外展開先で言われたこともあるようだ。リップサービスの可能性もあるが、そうであるとしても、技術面の問題がある相手にこのような種類のことは、あまり言わないだろうと筆者は考えている。

第4段階:補助金活用状況の最終報告・「精算」

【補助金の精算への対応の鍵】 繁忙期の年度末締めまでの事前準備

 この段階での最大の課題は、精算準備のために、直前にあわてない準備のコツが不明と感じる中小企業が多いということであると筆者は考えている。最終報告書は、筆者の経験上、補助金の事務局から段階的に作成や草稿の提出を催促され、文書のフォーマットや書き方の手引きに沿って作成すれば大きな問題は生じづらい。応募書類を流用できる箇所が多い場合もある。一方、何らかの補助金制度を利用したことのない中小企業の場合は特に、精算直前になって事務局から大量の精算関連書類の提出を求められてトラブルになってしまうことが少なくない。事務局や所管官庁の言い分としては、提出が必要な書類と期限はすべて補助金の採択企業に交付した書類に書いてあるという紋切型のものの場合も想定した方が良いかもしれないが、それでは中小企業にとっては何の助けにもならない、という趣旨の苦言や企業の方々の心の叫びを筆者自身何度も聞いてきたと記憶している。では採択された企業はどうすればよいのか。

 まず王道としては、とにかく何らかの形で全部記録しておくのが基本である。一見気が早い気もするが、補助金への採択が決まった直後から、補助金の精算時に必要な書類や証拠集めの体制をつくることが、漏れなく補助金の精算額を得る最短ルートの一つである。

 各補助金で異なる事項のため、あくまで一般論であるが、ある支出をしたこと、つまり、特定の金額を支払ったことの事実を、補助金の採択事業者以外の主体が発行した客観的な証拠書類(例:領収書等と送金記録を中心とした書類群)の積み上げによって立証することができることが、精算対象の支出であることを、補助金の所管官庁側に認知してもらう最低条件であると考えておいた方が、安全であると筆者は考えている。

 特に制度の立ち上げ1年目の補助金では、募集時だけでなく契約後においても当初、どのような書類や証拠が補助金の精算時に必要かについて、中小企業の方々からみると曖昧であると捉えられる状況もあり得る。そのような場合でも、最終的には、後ほど事務局から示される細則等に応じて、文書主義等のほぼ揺るがない原則のもと、補助金の所管官庁側の審査に委ねるしかないわけなので、採択企業側の防衛策は早めに講じ始めた方が良い。

 具体的には、補助金の精算対象として申請しそうな支出については、見積もり段階から請求、支払い、領収にいたるまで証拠となるデータを保存して後から使えるよう整理しておけば、大きな問題になることは少なくなるはずである。例えばファイルやフォルダ名を日付順にしてスキャンしてとっておくだけでも、後で大分楽になるだろう。

 もし海外展開先でタクシーを利用した場合等で請求者から書類を発行してもらえない場合は、最低限証拠となるメーターの写真を撮影しておく等の対処をすることが望ましい。ただし、保安のため、請求者の明示的な了承を得ることが必要である。社外から得る証拠以外に、社内で日報やプロジェクト日誌をつけておき、後で社外に提出できるようにしておくことも、助けになる場合がある。

 

補助金の精算に向けた事前準備を少人数で乗り切るためのヒント:文書主義の活用と正直な相談

 本稿をここまで読み進めると、文書や証拠の保存・管理に要するコストが膨大になりかねないと感じる中小企業の方もいると考える。記述の王道にまじめに取り組んですべて記録しようとしても、難しい場合も多いだろう。そこで、実質的に稼働できる全従業員=社長1人のような小企業で人手が全く足りない中、補助金の満額を精算で得た、筆者が支援した複数の中小企業の事例からヒントが見出せる。すなわち、文書で指示されていないことはせず、また、ある時点で新しい基準が示された場合はすぐに質問書や理由書を、事務局を通して補助金の所管官庁に提出し、同基準が示されるより前の事業においては、例外措置を認めるよう求める等の対策を講じることで、文書や証拠の保存・管理に要する不透明なコストに対処していた。

 また、補助金の所管官庁の側に対して、なるべく少ない補助金を支出したい、という動機を想定することは不健全であると筆者は考えている。この点は、利潤を追求するために支出を出来るだけ削ろうとする私企業同士の一般的な取引とは異なる。逆に必要かつ規定の範囲内であれば、補助金の採択事業者の適切な支出に対して、満額もしくはそれに近い補助金を支出できた方がいいという性善説を補助金の所管官庁の側に想定した方が、健全である。実際、筆者が支援した事例では、採択事業の実施中に不安や懸念が生じた際は、精算手続きに限らず、まず事務局を通じて所管官庁に正直かつ率直に相談してみた方が、補助金の最終的な精算額の面も含めて、双方にとって望ましい結果に落ち着くことが多いという実感が筆者にはある。

 もし、事務局の反応や対応が芳しくないと感じられるような場合は、A4サイズ1枚以内の簡単なものでもよいので、事務局を通じて所管官庁宛の正式な質問書や理由書をメールで提出すれば、それ以前よりも、しっかりと所管官庁とのコミュニケーションが図られることにつながりやすくなるであろう。少なくとも筆者の経験上はそうであった。ここでも、筆者の支援した事例の実例を振り返ると、文書主義をうまく利用した事業者の方々が結果的に得をすることが多い、と筆者は考えている。

第5段階:補助金精算後の事業「展開」

【海外展開の2年目以降への繋げ方の鍵】 準備は1年目の報告書から

 補助金精算後に採択事業者から筆者がよく聞いた課題は「補助金終了後どうすれば良いかが不明」というものである。採択された補助金の報告書では、確かに今後の展開について説明したものの、締切直前に何とか書き足したものであったりして、中小企業にとって実効性を伴わない目標に基づく今後の展開を書かざるを得ない場合もあるであろう。また、目標は何となく達成できる気がしても、そのために必要な道筋が描けない、という様子の中小企業も少なくないと筆者は感じている。では、どうすることができるのか。

 補助金に採択された1年目の報告書において、1年目の成果を正直かつ明確に報告しつつ、その時点の想定で良いので、2年目に達成したいことと、そのための計画を具体的に記載することである。その上で、事務局や、可能であれば日本国内の公的機関に次年度の計画の妥当性について相談して、加筆修正した報告書を作るのが望ましい。そうすれば、1年目の補助金の採択事業者として得られる支援を使って、2年目の計画のブラッシュアップを図れるからである。

 海外展開2年目の補助金についても1年目と同様、前例に基づく先入観は捨てて、文書主義に基づいて、公開される募集要領等にしっかり準拠した応募書類を準備することが大前提である。補助金の所管官庁は十中八九、同じ応募者が1年目とどのように異なる取組みをするつもりであるか、そして、2年続けて補助金の採択事業者に選ぶ妥当性があるかどうかを見極めようとするだろう。

 事務局を担う委託事業者や、所管官庁の担当者の方が1年目と2年目で同じであることはあり得る。ただし、そうであったとしても、全応募者の審査の公平性を保つ観点からも、1年目の報告書を参考にして2年目の採択事業者の審査を行うとは限らないことに注意が必要である。そのため、あくまで2年目の補助金の応募書類に記載する内容の範囲内において、1年目の補助金のために提出した報告書の内容を活用して、ブラッシュアップされた2年目の計画を示すことが求められる。

 海外展開1年目の補助金を使った取組みの結果、海外展開先における受注に至らなかった事例であっても、2年目の補助金に採択された事例は少なくない。このことが公開情報から判断できる事例もある。そのため、1年目の成果が芳しくないと感じられたとしても、募集要領の規定で2年目の応募が禁じられていない限り、2年目も採択されるチャンスは十分あると考えて、海外展開の継続にチャレンジして欲しい。

 なお、公開される募集要領等については、1年目の事務局から案内がない場合も十分あり得る。同じ補助金の事務局でも、実施年度毎に事務局の運営を国から委託される事業者が代わる場合もあるので、1年目の補助金の対象期間の終了最終月に入ったら、1週間に1回程度、所管官庁等のホームページをチェックしたり(ただし、1年目の事務局のホームページではないことに注意)、所管官庁の担当者の方に聞いてみたりした方が良い。実際、筆者の業務経験上、事務局が次年度の補助金事業について明示的な連絡を受けていない、ということも目の当たりにした。

おわりに:「複数年の補助金活用は補助金頼りにつながるか」への答え

 筆者は様々な補助金の過去データを大量に集積して分析する専門家ではない。よって、複数年の補助金活用が補助金頼りにつながるかどうかという問いに対して、統計的に有意なデータ等の科学的根拠をもとに直ちに答えることはできない。

 その一方で、海外展開の様々な段階で公的な補助金を適法に活用して、最終的には毎年度補助金を得なくても事業が成り立つようになった国内外の事例を多数知っている。その後、例えば生産設備の修繕に補助金を活用したり、その補助金の獲得のために、地元の自治体と適法に連携して取組んだりした事例も知っている。補助金の獲得や活用で得た経験を活かして、国内外の政府調達への応募に取り組む事業者の方々もいる。他方では、補助金の獲得と活用方法をアドバイスすることを業務に取り込んでいく事業者の方々も珍しくない。

 各補助金には、ほぼ必ず趣旨や目的、そして、補助金事業を行う公的主体が同事業によって目指す目標が個別に設定され、多くが公開されている。もちろん、各補助金の応募時には偽りのない内容の書類で応募することが絶対条件である。この条件下において、ある補助金を得た地方の中小企業が、その補助金の対象期間を終了した後に、別の様々な公的な補助金を活用したとしても、長期的に見て、前述のように様々な形で適法な事業を成り立たせつつ、今後も長年にわたって地元の経済と雇用を支えながら存続していけるのであれば、社会通念上も倫理的には問題ないだろう。このような状況であれば、補助金活用が補助金頼りにつながるとは言えないと筆者は考えている。

 このような倫理的な検討を踏まえて本稿では、筆者が日常的に伴走支援にあたるなかで見えてきた、国の補助金を活用した地方中小企業による海外展開の実務上のポイントについて、補助金への応募から獲得、海外展開の開始と、年度末締めが多い補助金の精算への対応、2年目以降への繋げ方までの時系列順に、中小企業の方々や地方公共団体等で企業支援業務に従事されているご担当者にとっても有益な情報を提供できるよう努めつつ述べた。本稿で説明した、実際に生じた事例と対処の実例をもとにした実務上のポイントを参考にしつつ、中小企業の方々が海外展開への挑戦を具体的に検討していただけるよう、また、挑戦を決断された方々が成功されるよう願っている。

 なお、筆者が所属する弊社(富士通株式会社)グループでは、様々な形で、中小企業の方々をはじめとする地場産業の担い手の方々の海外展開を促進する施策や、その他産業振興につながる施策の検討のお手伝いができるため、本稿をお読みいただいた方は、御自身の御所属にかかわらず、弊社(富士通株式会社)グループへのご相談をご検討いただきたい。

 

[i] https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/kaigaitenkai_202403_2_report_C1.pdf
[ii] PhD in International Studiesの資格を持ち国際調査を専門としている。
[iii] 例:近藤信一、浜屋敏、大平剛史「中小企業の国際化の新モデル模索岩手県中小企業に対する実態調査からの考察」 第57回産業学会全国研究会、相模女子大学、201968日、http://www.sisj.org/pdf/conference/2019program.pdf
[iv] 例:近藤信一、大平剛史、浜屋敏「中小企業の国際化の新モデル模索岩手県中小企業に対する実態調査からの考察」『機械経済研究』No. 50201912月、https://www.jspmi.or.jp/system/l_cont.php?ctid=120206&rid=1328
[v] https://www.jgrants-portal.go.jp/
[vi] https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/culture/pr/yoron.html
[vii] 「日本に対して抱いているイメージ」を表す複数の選択肢から、単数もしくは複数の選択肢を選択して回答が可能な質問への回答の集計結果。

 

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執筆者

大平 剛史

株式会社富士通総研 コンサルタント 兼 公共政策研究センター 上級研究員

早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際関係学専攻博士後期課程修了(博士(学術))。専門はAI・量子技術等の先端技術の社会適用、国際関係論(紛争解決論)、安全保障研究、先端防衛技術研究(デュアル・ユース技術等)、個人の社会適応支援(インクルージョン研究、観光を起点とした社会課題の解決)。
主な研究テーマは、AI、量子技術等の先端技術の社会課題解決への適用方策・政策研究、先端防衛技術研究(欧米・中露のデュアル・ユース技術、宇宙・サイバー・電磁波領域の各技術と統合運用戦略の研究)、仲介の効用を中心とした紛争解決論。
著書に「Reasons for the Success and Failure of Japan’s Mediation for Intra-State Conflicts in Aid Recipient Countries as Their Top ODA Donor: Case Studies of Cambodia (1997-1998) and Sri Lanka (2002-2009)」など。
近年は、政策研究誌や富士通総研オピニオン等にて論文を投稿。また、総務省、国土交通省、内閣府などからの委託研究にも多数携わっている。