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【後半】自治体システム標準化・ガバメントクラウドの推進で顕在化した国・地方のデジタル政策における制約条件 サムネイル

【後半】自治体システム標準化・ガバメントクラウドの推進で顕在化した国・地方のデジタル政策における制約条件

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  1. 国・地方共通政策に向けた示唆
  2. 終わりに

国・地方共通政策に向けた示唆

 前述までの議論を基に、国が策定した標準仕様書を基に開発したシステムを地方自治体が調達する、国・地方共通政策を展開する際、政策を決定する段階で特に考慮すべき点を整理する。

(1)実施状況の把握と軌道修正の仕組み

 自治体システム標準化・ガバメントクラウドの推進は、国から地方自治体へ直接に至る経路と、国から事業者を経て地方自治体に至る経路との二つが存在した。前者は、標準化PMOツールによる進捗管理、標準化リエゾンと都道府県を通じた支援体制と、手段が重層的に整備された。これに対し後者は、標準仕様書の策定、事業者協議会等を通じたコミュニケーション以外に実効的な手段がほとんどなく、クリティカルパスを決定的に左右する経路の方で統制の手段が存在しなかった。
 この点を踏まえ、まず情報を取得する経路を、実施主体に合わせて設計する必要がある。標準化PMOツールが把握していたのは地方自治体の作業の進捗であり、クリティカルパスを握る事業者の開発状況ではない。加えて、地方自治体経由で二重の伝聞を経ることで、実態把握が遅れることを考慮する必要がある。すなわち、地方自治体経由で把握とは別のルートで、標準仕様書を策定する制度所管省庁等が事業者から直接把握するルートを持つべきである。もっとも、国と事業者との間には契約関係が存在しないため、標準仕様書への準拠を表明する事業者に開発計画とその進捗の報告を求める等、報告を求める根拠・手段を予め検討しておく必要がある。
 上記に加え、進捗における指標が一定水準に達した場合の対応を、あらかじめ定めておくべきである。状況が悪化してから対応を検討したのでは、期限までに採りうる選択肢は限られる。どの水準に達したときに、期限、対象範囲、支援内容のいずれをどのように見直すのかという判断の基準と手順を、制度の開始時に定めておくことにより、対応の遅れを避けることができる。

(2)地方自治体独自の裁量余地

 前述のとおり、地方自治体は、国が策定した標準仕様書やガバメントクラウドに係る疑問点があれば国に照会する必要があった。これにより団体内で意思決定が完結しない局面が生じた際、判断に時間を要し、結果として地方自治体側のプロジェクト推進に制約が生じた。将来的なシステム共同化を見据え地方自治体職員の調整余地を減らすため、制度所管省庁が標準仕様書等を策定することにより厳格な標準を適用した結果、地方自治体の現場では容易に身動きが取ることが難しくなった。
 地方自治体が標準仕様書に準拠したシステムを導入する際、少なくともプロジェクト管理の観点から、品質・コスト・スケジュールをコントロールできる状態を確保しなければならない。特に自治体システム標準化は、品質における一要素である機能要件は標準仕様書により定められ、スケジュールは法令により期限が定められ、コストは競争性が担保できず既存事業者の見積りに依存するため、全体として自らの判断・調整可能な余地は限られていた。
 また、定めた裁量の範囲内にあるという事実と地方自治体が自ら判定しうることとは別の事柄である。個別の事案がその範囲内にあるかを自ら判断できなければ、結局は照会を要する。自治体システム標準化・ガバメントクラウド推進では、標準化仕様書の改定・レファレンス等の策定によって対応が重ねられたが、これらは疑義が生じた後に整備された。基準を示す側には、基準そのものに加え、判断の考え方や想定される事例への当てはめをあわせて示すことが望ましい。同種の照会が多数寄せられる場合、基準の記述に不明確な点がある兆候と捉え、基準の改善に活用すべきである。

(3)事業者のインセンティブの考慮と地方自治体の調達における競争の担保

 スマート自治体検討会では、①制度所管省庁がカスタマイズの多くが法令通知より細かく良しあしを判断できない、②地方自治体は法令通知の解釈が明確ではなく担当者間の水平的調整では決着ができない、③事業者は発注者である地方自治体の要望を受け入れざるを得ない点を、三すくみの状態と評していた。この点を踏まえ、事業者側も個別要望に応じ続ける構造を断ち切るメリットがあり、また前提として事業者は与えられた要求に応じる主体として整理されていた。しかし実際には、むしろ投資可否を判断する主体であり、標準仕様書に準拠するコストおよび準拠後に市場に期待ができないのであれば、経済合理性に従い市場から退出する存在にほかならない。三すくみの解消を意図したのは、事業者を自治体からの過剰な要求から解放することであったものの、実際に起きたのはホワイトリスト方式・期限により需要が同時期に集中したことで、事業者は自らのリソース配分を優先順位づけできる立場になった。
 つまり、地方自治体に標準準拠システムを利用する義務を課したが、地方自治体が調達で競争性を確保できるように、標準準拠システムを市場に供給する義務は事実上、誰も負っていない状態であり、標準準拠システムを期限内に移行する義務の履行可能性が事業者に強く依存する構造となっていた。
 以上の点から、国・地方共通政策の検討段階では、事業者が当該市場に投資し、事業を継続することが経済合理的な選択となる仕組みを、政策の一部として組み込んでおく必要がある。具体的には三つの観点から方策が考えられる。第一に、先行投資の観点である。標準準拠システムの開発そのものを補助対象とすること、複数事業者による共同開発、あるいは国がソフトウェアの全部または一部を開発し事業者が再利用可能な形で配布すること等が挙げられる。第二に、標準化後の収益機会の確保である。標準への準拠実績や移行支援の実績を地方自治体の調達評価に反映する仕組みが想定される。第三に、新規参入の促進と撤退への備えである。参入を検討する事業者にガバメントクラウドの検証環境を無償で提供するとともに、事業者の撤退は起こり得るものとして、予告期間・データの引継ぎ手順・受け皿事業者への移行手続を、あらかじめ標準仕様書に係る仕組みの中に織り込んでおくべきである。
 事業者のインセンティブを考慮しないまま移行が進んだ場合、単に事業者が不利益を被ることにとどまらない。市場に残る事業者が減少すれば、地方自治体は調達時に競争性を確保できなくなり、発注者と受注者の力関係で受注者が優位となる可能性がある。したがって、事業者のインセンティブの設計は事業者への配慮の問題ではなく、地方自治体が継続的に競争性を確保できる状態を維持する要件として位置づけられるべきである。

(4)事業者の実施資源に鑑みた期限管理

 特定移行支援システムの約95%は、事業者のリソースひっ迫による遅延に起因する。全国一律の期限を設定することは、同時に全国規模の作業需要を同一の時期に集中させることを意味した。そして、全地方自治体が20業務を一斉に移行する需要の総量は、個々の地方自治体や事業者には把握できず、期限を設定する国以外に見通しうる主体は存在しない。
 ガバメントクラウドの利用を努力義務としたことで、標準仕様書への対応にとどまらずパッケージシステム全体の再構築が必要となるなど、作業量そのものが検討過程で大きく変化した。また標準仕様書が改定されれば、少なくとも事業者は影響分析から改修、検証、各団体への適用に至る作業が追加される。つまり、期限の妥当性は当初の作業量の見積りだけでなく、期限までの間に行われる仕様改定の量も影響する。
 したがって、国・地方共通政策において期限を設定する際には、特に事業者の人的資源、エンジニアリソースが、全国で必要となる総量と供給可能な量を事前に見積もり、期限とその見通しとを連動させるべきである。そのうえで、仕様の改定を期限と関連させて管理しなければならない。
 特に全国一律で移行させる場合、需給の見積りを正確に行うことには限界がある。求められるのは精緻な予測ではなく、対象業務や団体規模に応じて移行時期をグルーピングし、分散させること、一定の時点で需給を再評価し、その結果に応じて期限を見直す手順をあらかじめ設定しておくことである。また、期限の一定期間前以降は原則として仕様を固定すること、やむを得ず改定する場合は追加の作業量を見積もったうえで期限・対象範囲とあわせて判断すべきである。

終わりに

 本稿では、国が整備した標準仕様書を基に事業者が開発したシステムを地方自治体が導入することを目指す国・地方共通政策に、共通して現れうる制約条件と今後の示唆を中心に整理した。本稿で整理した制約条件、政策の軌道修正の困難、地方自治体の裁量の制約、事業者インセンティブの考慮不足は、自治体システム標準化に固有の問題ではなく、国が標準を定め地方が実装する構造を持つ政策に共通して現れ得る可能性がある。今後の同種政策において、これらを念頭にから織り込むことが不可欠である。

【参考文献】

地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(令和3年法律第40号) 
「地方公共団体情報システム標準化基本方針」(令和6年12月24日閣議決定)
同(令和5年9月8日閣議決定) 
同(令和4年10月7日閣議決定・策定時)
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和7年6月13日閣議決定) 
総務省「自治体戦略2040構想研究会 第二次報告」(平成30年7月) 
総務省「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会 報告書―「Society 5.0時代の地方」を実現するスマート自治体への転換―」(令和元年5月) 
総務省「自治体システム等標準化検討会(住民記録システム等標準化検討会)」 
デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化に関する共通機能等課題検討会」 
「特定移行支援システムの該当見込み(概要)(令和6年10月末時点)」(令和6年12月24日公表、同月26日訂正) 
同(令和7年1月末時点)(令和7年4月4日公表) 
同(令和7年4月末時点)(令和7年6月27日公表) 
同(令和7年7月末時点)(令和7年9月30日公表) 
同(令和7年10月末時点)(令和7年12月23日公表)
同(令和7年12月末時点)(令和8年2月27日公表)
デジタル庁「移行支援期間における特定移行支援システムの数について(令和8年3月末時点)」(令和8年6月30日公表) 
総務省「地方公共団体情報システムの標準化・ガバメントクラウドについて」(令和8年2月13日 地方財政審議会提出資料) 
デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化について」(令和7年11月18日 第44回国と地方のシステムワーキング・グループ提出資料) 
デジタル庁「自治体DXの推進について」(令和6年11月25日 第41回国と地方のシステムワーキング・グループ提出資料) 
デジタル庁「自治体情報システムの標準化・ガバメントクラウド移行後の運用経費に係る総合的な対策」(令和7年6月13日) 
内閣官房「デジタル行財政改革会議」 
総務省「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(令和3年法律第40号)の概要」 
総務省「自治体情報システムの標準化・共通化」(手順書及び標準化PMOツールにおける進捗状況を掲載) 
総務省「自治体情報システムの標準化に向けた環境整備(デジタル基盤改革支援補助金)」 
総務省「地方公共団体情報システム標準化・共通化に向けた総務省としての主な取組について」 
デジタル庁「地方公共団体標準準拠システムのガバメントクラウドの利用について【第3.0版】」(令和7年3月改定) 
デジタル庁「地方公共団体情報システム非機能要件の標準【第1.2版】」(令和7年9月) 
デジタル庁「標準仕様書間の横並び調整方針について」(令和6年8月7日改定)
デジタル庁「標準仕様に対応したシステムに対する一部機能の経過措置について」 
デジタル庁「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」 

(URLの最終閲覧日はいずれも令和8年8月30日)

執筆者

冨岡 周泰

浦添市CIO補佐官