外国人関連行政の基本構造 — ライフサイクル視点と目的別連携 —
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はじめに
日本における外国人の受け入れは労働力確保、国際交流、経済活動の活性化等の観点から拡大が続いてきた[1]。その一方で、在留外国人の増加に伴い、不法就労への対応[2]、国民健康保険料等の未納対策、医療費不払いへの対応[3]、さらには重要土地等調査法にみられる安全保障上の土地利用管理[4]など、複数の行政領域にまたがる問題への対応が求められている。
これらの問題は、個々の外国人のモラルや一部制度の不備が原因だと思われる可能性があるものの、個別事象の列挙にとどまる限り、問題が発生するメカニズムを十分に説明することは難しい。
そこで本稿は、在留関連手続、住民登録、社会保障等の外国人に関する行政事務を総称して「外国人関連行政」と呼び、外国人を対象とする制度群がどのような前提と構造の下で設計されているかを俯瞰し、管理上の空白や制度間の分断が生じる局面を整理することを目的とする。具体的には外国人の来日前から日本入国、滞在中の在留資格の更新・変更およびライフイベントに伴い発生する手続等を対象として、現行の外国人関連行政の構造を整理する。本稿は外国人を巡る社会問題全般を対象とするものではなく、自治体における行政手続・住民サービスの観点から課題を整理するものである。その上で、社会保険料や医療費の未納や不法就労といった問題がなぜ発生するのかを制度構造の観点から分析し、今後の行政管理のあり方について考察する。本稿は外国人を潜在的なリスクとして捉えるものではなく、外国人に対する新たな規制強化を目的とするものでもない。多くの外国人が適法に在留し、地域社会や経済活動を支えていることを前提に、行政制度間の接続関係や管理構造を分析するものである。
[1] 出入国在留管理庁HP「令和7年6月末現在における在留外国人数について」
[2] 出入国在留管理庁HP「令和7年における入管法違反事件について」
[3] 厚生労働省HP「在留外国人の医療保険適用の課題と対応」
[4] 内閣府HP「重要土地等調査法」
外国人関連行政の全体像
外国人関連行政は単一の制度や行政主体によって完結するものではない。出入国在留管理庁、外務省、厚生労働省、財務省、内閣府、地方自治体等、複数の行政主体が関与している。
来日前の段階では在留資格認定証明書(以下、COE)の発行や査証(ビザ)の発給が行われ、入国時には上陸審査と在留カードの交付 [1]が実施される。(図1)入国後は在留管理制度を基軸として住民登録、社会保障制度、税制度へと接続される。さらに土地・不動産の取得に関しては別の法制度が関与する。
これらの制度には複数の行政主体が関与しており、各制度は所管行政の目的に応じて合理的に設計されている。一方で、「外国人の生活・行動を一貫的に把握・管理する」という観点からみると、必ずしも十分とは言いにくく、各機関が保有している情報は統合されておらず、個々に情報を収集・保有している状況にある。(図2)
各機関の制度には「手続」を起点として情報を取得・管理している点に特徴がある。行政が外国人の実態を把握するのは入国、在留資格の更新・変更、届出といった手続が行われる時点に限られており、手続を起点とする状況把握に依存していることが諸問題が発生する要因となりうる。
図1:日本に中長期滞在する外国人の手続の流れの一例(筆者作成)
図2:関係機関が保有する外国人個人情報(筆者作成)
外国人関連行政における課題の所在
外国人が日本に渡航する前段階では、COEと査証(ビザ)という二つの重要な制度が存在する。COEは日本国内で行おうとする活動内容が在留資格に該当するかを事前に審査する制度であり、出入国在留管理庁が所管している。一方、査証は日本への入国可否を判断する制度であり、外務省が所管する。
両者はCOE申請時に提出された情報が査証審査や入国審査において共有・参照されており、実務上密接に関連しているが、申請情報や審査結果は制度上別々に管理されており、制度上では分断されている。
外国人が日本に到着すると上陸審査が行われ、一定期間以上滞在する場合には在留カードが交付される。在留カードはその後の在留管理、住民登録、社会保障制度への接続における「起点」となる重要な証明書である。
しかし、上陸審査は基本的にパスポート、査証、COE等の提示情報に基づく確認に依拠しており、渡航前段階における詳細な審査プロセスや判断理由を十分に参照できる仕組みではない可能性がある。また、在留カードの真正性確認は法務省が提供する在留カード等読取アプリケーションを使うことで外国人を雇い入れる企業においても可能となっているが、一部では偽造在留カードを用いた不法就労や資格外活動が発生していると指摘されており、入国後の管理リスクとして顕在化している[1]。
偽変造在留カードを用いた不法就労への対応として、警察庁、法務省、入管庁および厚労省が連携し、令和8年5月に関連対策を改訂している。特に、在留カード等読取アプリの活用徹底や、失効情報照会との連携を通じた有効性確認機能の充実が掲げられており、雇用現場での確認実務を制度的に補強する方向が示されている[2]。
このような渡航前のCOEを起点とする在留管理制度は2012年に導入された[3]制度であり、中長期在留外国人の在留状況の把握を目的としている。他方、その運用は申請・届出の提出時に情報が更新されるという点で「申請・届出依存型」の性格を有すると整理できる。
本人が在留資格の更新や変更、住居地の届出等の手続きを行ったタイミングで情報が更新されるため、日常的な就労実態や生活状況を継続的に把握する仕組みにはなっていない。
また、国民健康保険や住民税等の制度は、日本国内に継続して居住することを前提として設計されていると言える。そのため、外国人が出国する場合においては、未納の管理や回収を十分に織り込んだ設計とは言い難く、現行制度の下では出国後の支払い状況を把握することが困難となる局面が生じている。
こうした制度分断の具体例を踏まえると、渡航前・入国時・滞在中・出国時の各局面で所管横断の情報参照が限定的であること自体がリスク要因であると言える。
外国人関連の現行制度では、申請・届出が行われた後に状況を把握する運用となる場面が多く、結果として事後的な対応になりやすい。そのため、問題が顕在化してから対応せざるを得ない構造となる可能性がある。外国人を巡る諸問題は、各制度がそれぞれの行政目的に即して合理的に設計されていることを前提とした上で、複数制度が目的別に並立する結果として生じた「分断された管理構造」の影響が大きいと考えられる。このような構造である以上、問題が顕在化してからの対応コストを抑える観点からも、予防的にリスクを把握する設計へ段階的に移行していくことが求められる。
例えば、外国人による土地・不動産取得については、一部の条件下では重要土地等調査法等により取得時に国籍情報の届出が求められるものの、在留管理制度とは別の制度として運用されており、「内外人平等の原則」を前提として原則自由とされている。しかし、国土の適切な利用・管理や経済安全保障上の観点等から、2026年10月5日以降、所有権の保存・移転等の登記で新たに登記名義人となる個人について、登記申請時に検索用情報として「国籍等」の申出が求められる制度が開始される。なお、当該情報は登記事項証明書(登記簿)には記載されず、法務局内部で管理される仕組みとされているため、外国人の土地保有の把握状況の改善が見込まれる。
[1] 警察庁HP「第1項 来日外国人犯罪の情勢」
[2] 入管庁HP「不法就労等外国人対策の推進について」
[3] 出入国在留管理庁HP「知っておきたい!!在留管理制度あれこれ」
課題解決に向けた考察
4-1.管理思想の転換(点から線へ)
現行の外国人関連行政は、「入国」および「更新・変更」等の手続時点において実態把握が行われる設計となっている。この場合、問題が発生したとしても、行政による把握は事後的になりやすい。
今後は外国人を「個別制度の対象物」ではなく「ライフサイクルを持つ存在」として捉える管理思想へ転換していくことが重要になると考えられる。具体的には、外国人が日本に渡航する前の段階から出国するまでの一連の流れにおいて、どの段階でどの情報をどの主体が把握するのかを整理するということである。
ここで重要なのは外国人を常時監視するかのような管理強化をすることではない。むしろ、問題が生じやすい「状態」の早期把握や状態悪化前の制度的介入余地の設定といった「状態管理」の枠組みを導入することが重要である。例えば、在留資格上は就労可能だが税・社会保険・雇用情報が長期間更新されていない状態、言い換えると住民登録は存在するが実態として自治体・雇用主との接点が希薄な状態が発生する前に検知できる設計が求められる。
以上のとおり「状態管理」の考え方に立つと、手続単位の管理から問題が生じやすい状態を早期に把握できる運用にすることで、過度な監視に依らないリスク低減が期待できる。
4-2.「一元管理」ではなく「目的別連携」
外国人情報の分断が問題化する局面では「情報の一元管理」が解決策として考えられるが、実務面および法制度面を踏まえると、すべての情報を単一主体に集約することは実現可能性および個人情報保護の観点から、慎重に検討する必要がある。単純に集約することが難しい取るすると、重要なのは「何の目的で」「どの情報が」「どの主体間で共有されるべきか」を明確にした目的別の情報連携設計である。
つまり、全情報の集約ではなく、目的と法的根拠を明確化したうえでの限定的な連携から着手する方が実装上の現実性が高いと考えられる。
4-3.在留管理を他制度連携のハブに位置づける
現行制度において在留管理は税・社会保障・雇用等の各制度と並列的に位置づけられている。他方、外国人の滞在可否の判断に直結する在留管理の重要性を考えると、在留管理を制度横断的な参照軸として位置づけ直し、一定の条件の下で他制度情報を参照可能とする設計が有効であると考えられる。例えば、在留資格の更新・変更判断に際し、個人の状況をより多角的に把握する仕組みの制度設計を行う。そうすることで、就労目的で在留しながら住民税や国民健康保険料を長期間にわたり納めていない場合、その未納情報を在留資格の更新審査における判断材料として容易に扱うことができる。
この方向性は、近時の制度見直しでも具体化しつつある。国民健康保険料等の未納付情報については、市町村における滞納情報の把握体制を整備した上で、出入国在留管理庁が関係行政機関等から当該情報の提供を受けられる仕組みの構築が検討されている。また、税の未納付防止についても、マイナンバーの活用等の実効的措置を講じることが示されている[1]。
また、在留資格の根拠の一つである雇用関係の有無を確認するため、企業における雇用保険の加入記録等を参照することも選択肢となり得る。これにより、実際には職を失っているにもかかわらずその事実を届け出ずに在留を試みるケースをより的確に把握できる可能性がある。
日本の医療機関で高額な治療を受けながら費用を支払わずにいるといった医療費不払いの情報も、医療機関への影響という観点から在留審査との接続が強まりつつある。近時は、不払い情報の共有基準を20万円以上から1万円以上へ引き下げる方向や、短期滞在者に加えて中長期在留者の在留審査にも活用する方向が示されている。これにより、医療費不払いは在留継続の可否を判断する制度横断的なリスク情報として扱われる可能性が高まっている[2]。
このように、各制度に分散する情報を在留管理という軸で連携させることにより、より実態に即した公平な審査につながることが期待される。ただし、在留管理を参照軸として制度連携を進める場合は、参照する情報範囲・手続・説明責任(透明性)は個人情報保護の観点やや情報の目的外利用とならないよう丁寧に設計する必要がある。
4-4.出国を含めた管理設計への拡張
税や社会保障制度が抱える最大の構造的課題は「国内居住の継続」を暗黙の前提としている点にあると考えられる。外国人は出国・再入国が可能な存在である以上、出国を含む管理設計も重要となる。
国籍・在留状況との関係性を把握可能とする制度設計および他制度と接続可能な情報構造を検討していくことが望ましい。つまり、出国を前提とした再入国時の情報照会等のライフサイクルの「出口」まで含めた設計を組み込むことで、問題の発生が抑えられる可能性がある。
結論
以上を踏まえて、今後求められるのは単なる規制強化ではなく、外国人のライフサイクル全体を前提とした在留外国人の管理構造の再設計である。特定技能制度やマイナンバー等を活用した情報連携の議論は進みつつある[1]が、制度設計上は「何を、誰が、何の目的で管理するのか」という管理目的と管理主体の再定義を前提として整理していく必要がある。
2027年4月からは人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度が施行される予定である。同制度は、特定技能制度との接続を前提に、就労を通じた技能形成、一定要件下での転籍、日本語能力要件、監理支援機関による受入れ管理等を組み込むものであり、外国人受入れ政策が、労働、生活および在留を一体的に捉える方向へ移行していることを示している[2]。
外国人を巡る課題を構造的に捉え直すことは、持続可能な外国人受け入れ政策および行政運営の基盤となり得る。外国人を巡る諸問題は特定の制度や運用の問題として切り出す限り根本的な解決にはならない可能性がある。本稿で整理したように、社会保険料や医療費の未納、不法就労といった問題は分断された管理構造の下で生じやすいと考えられるが、外国人のライフサイクルを前提として制度間の前提条件を整合させ、問題が生じにくい状態を制度設計として担保することが持続可能な外国人との秩序ある共生社会推進の基盤になると考えられる。
図3:外国人関連行政の課題解消の結果(筆者作成)
(執筆:富士通株式会社 パブリックコンサルティング事業部 吾妻優大)